四十九番ホーム
事故で死んだ少女は、四十九番ホームにしか現れない。
駅にホームは四つしかない。だが終電後、四番線の非常扉を開けると、数字の九だけが新しい標識が続いている。線路の向こうは霧で、時刻表には存在しない列車が並ぶ。私の懐中時計はそこへ入ると止まり、少女の携帯だけが青白く点滅した。
少女は黄色い点字ブロックの上に座っていた。胸元には割れた携帯電話を抱えている。彼女が巻き込まれた脱線事故の記事を、私は朝刊で読んだばかりだった。乗客百十二人のうち、死者は一人。写真の制服も、彼女と同じだった。記事には、事故直前に少女が家族へ動画を送っていたとある。彼女の割れた画面では、送信中を示す輪だけがいつまでも回っていた。
「どうしてここに?」
『帰れなくなったから』
「事故の原因を覚えている?」
『運転士さんが、線路の人を避けたの』
彼女は画面の消えた携帯を撫でた。私の足元に落ちている新聞を見て、「紙でニュースを読むんだ」と珍しがる。反対に私は、彼女が話す顔認証や動画配信の意味がわからなかった。
ホームの時計は、秒針だけが逆に進んでいた。霧の向こうから流れる発車メロディーは、まだこの駅で採用されていない曲だった。
『駅員さん、お願いがあります』
「何だい」
『線路に入る男の人を止めて。そうすれば列車は曲がらない』
彼女が告げた事故の日付は、五十七年も先だった。私は聞き違いだと思い、もう一度尋ねた。少女は同じ年月日と、列車番号を繰り返した。
夜明けが近づくと、ホームが透け始めた。少女は携帯の割れた画面をこちらへ向けた。そこには私の駅員帽に似た古い帽子の写真と、《開業百周年記念展》の文字があった。
『あなたの制服、博物館で見たことがあります』
霧が晴れ、私は四番線へ戻った。売店に並ぶ新聞の一面は、人類初の月面着陸。駅務日誌の日付は一九六九年七月だった。
私は未来の列車番号を赤字で書き、金庫へ封じた。
鍵を回すと、霧の向こうで、まだ生まれてもいない少女の携帯が鳴った。四十九番ホームは、未来の死者が過去へ乗り換える駅だった。