地図を売った斥候

籠目ケイスケの背へ、味方の矢が突き刺さった。

《踏破地図》

実際に歩いた者の名前を、各区画の作成者として永久記録します。

地図は複製できますが、作成者欄は変更できません。

「敵ギルドへ最短路を売ったな」

団長が複製地図を掲げる。未公開だった隠し通路が敵に渡り、待ち伏せを受けた。地図を作った斥候はケイスケだけ。証拠は明白に見えた。

彼は矢を抜き、地図の隅を拡大した。

《作成者:籠目ケイスケ》

《最終複製者:非表示》

《複製地点:ギルド倉庫》

最短路を歩いたのは彼だが、売った者とは限らない。倉庫へ入れるのは幹部だけだ。

団長は地図を燃やそうとする。複製は消えても、歩行記録は世界側に残る。ケイスケは敵の攻撃を避けながら、同じ隠し通路を逆走した。

各区画を踏むたび、地面に作成者欄が浮かぶ。最後の倉庫前だけ、別の足跡が重なっていた。

《複製実行者:ギルドマスター》

《対価:敵ギルドから金貨三万》

団長は両ギルドを戦わせ、戦死者の装備を回収するつもりだった。

敵側の斥候も地図を見て剣を下ろす。自分たちも買わされた側だと知ったからだ。二つのギルドは通路の中央で団長だけを囲む。

ケイスケは彼を斬らず、地図の公開設定を《全員》へ変えた。秘密を売る価値そのものを消す。

《待ち伏せ戦を中止》

《踏破地図を全プレイヤーへ公開》

公開された地図には、最短路だけでなくケイスケが引き返した箇所も残っていた。負傷者を迎えに戻った遠回り、敵NPCの墓を避けた迂回、崩落を知らせるため二度歩いた区画。

団長が売ったのは一本の近道だけだった。歩いた者の迷いや判断までは複製できない。

敵側の斥候は金貨三万を通路の修復費へ返した。買った側にも責任はある、と。

ケイスケは作成者名を消さず、地図を無料にした。名を残すことと、道を独占することは別だと示すためだった。

公開後、迷宮の入口には「歩いた者へ礼を」と小さく表示された。

《裏切り者を訂正――道を見つけた者ではなく、仲間しか知らない道へ値札を付けた者》