壁の中の四人目
藍川鈴音は、鉄椅子を一方鏡へ叩きつけた。
鏡が割れ、その向こうから呉羽庄司の悲鳴が上がる。
榎並忠勝と門真千晶は、隠し部屋に立つ男を見て息を呑んだ。庄司はマイクを握り、つい先ほどまで主催者の声を演じていた。
壁の規則は一つ。鏡の向こうからは、機械ではあり得ない椅子の軋みと、紙をめくる音が一定の間隔で漏れていた。鈴音は開始前から、その音の位置を測っていた。
〈一分後、この部屋で最後に嘘をついた者だけを脱落させる〉
開始直後、鈴音は天井へ尋ねた。
「あなたはこの部屋の外にいる?」
庄司は笑って答えた。
『もちろん。ここにいるのは参加者三名だけです』
忠勝と千晶は、その後一言もしゃべらなかった。最後の嘘を押しつけられないよう、互いに口を塞いでいた。鈴音も黙り、残り五秒で椅子を持ち上げた。
一方鏡は、建築図上では同じ室内を仕切る観察壁にすぎない。割れれば、四人は物理的にも一続きになる。
〈室内人数、四名〉
庄司の顔が青ざめた。
「私は参加者ではない!」
鈴音は破片越しに規則を指す。
「参加者とは書いてない。者、とだけある」
しかも庄司の発言は二重に嘘だった。彼は部屋の外ではない。ここにいるのも三名だけではない。
終了音。
〈最終虚偽発言者、呉羽庄司〉
庄司の足元で拘束具が作動し、椅子ごと床へ固定する。三人の首輪は緑に変わった。
『判定を取り消せ! 私は運営責任者だ!』
「責任者なら、規則の責任も取ればいい」
鈴音は隠し部屋の制御卓へ入り、出口を開けた。そこには三人の家族写真、借金記録、犯罪歴が並んでいる。庄司はそれらを使い、参加者に「自分だけは潔白だ」と嘘を言わせるつもりだった。
千晶が庄司を振り返る。
「自分は安全だと思っていたのね」
鈴音は割れた鏡の枠を跨いだ。
「嘘を裁く部屋に、嘘をつく主催者が一番近く座っていた。それだけ」
最後に残った鏡片には、観客ではなく敗者になった男の顔が映っていた。