売れ残りの白い花

花屋「ニワトコ」に、結婚式場から百二十本のキャンセルが入った。白いトルコギキョウ。代金は半分しか戻らず、仕入れは全額支払い済みだった。

新津真尋は、段ボールを見たまま言った。

「廃棄ですか」

「まだ首が上がってる」

長谷は茎を切る鋏を渡した。二人で小さな花束を作り、店先に五百円で並べることにした。

新津は白い花が苦手だった。母の葬儀で見た色に似ている。母が亡くれたあと、人に気遣われるのが嫌で、同僚との食事も断ってきた。長谷がまかない代わりに菓子パンを二つ買っても、一つしか手をつけなかった。

茎を斜めに切り、傷んだ葉を外し、三本ずつ束ねる。長谷が麻紐を巻き、新津が薄紙で包む。最初は指が触れるたびに互いに手を引いた。二十束目には、声をかけず受け渡せるようになった。

昼を過ぎても、売れたのは四束だった。通りは人が少なく、向かいのドラッグストアだけが明るい。新津は値段を三百円へ下げようとしたが、長谷は首を振った。

「安くしても、今日じゅうに全部は売れない」

「じゃあ腐らせるんですか」

「明日の分を残す」

店が明日もあるという言い方だった。来月の更新料を払えるか、二人とも知らないのに。

閉店までに十三束が売れた。残りは冷蔵庫へ入れた。入りきらない花で、長谷は大きな一束を作り始めた。新津も黙って茎を揃えた。売り物には不揃いなものだけを集め、店の窓辺へ置いた。

「これは?」

「店番」

白い花がレジの横で揺れた。新津は視線を逸らしかけたが、母の葬儀とは違い、ここには鋏の音と冷蔵庫の唸りがある。

帰り支度をした長谷は、紙袋を二つレジへ置いた。中身はいつもの菓子パンだった。新津は一つを鞄へ入れ、もう一つも押し返さなかった。

店を出てから、自転車を店先へ置いたままだと気づいた。取りに戻れる時間だったが、新津はそのまま駅へ歩いた。明朝、花の水を替えるついでに乗って帰ればいい。白い束のある窓を振り返ると、冷えた通りで、店内だけが小さく明るかった。