天井の赤い風船

結婚式場の新婦控室で、祝儀金庫の鍵が消えた。日置谷支配人は、金庫点検のため鍵を化粧台へ置き、三人の担当者と封筒の数を確認していた。廊下で花火の試射音が響き、皆が窓へ寄った数秒後、鍵は消失。控室の扉は内側から掛かり、窓は開かない構造だった。

容疑者は装花主任の甲元、司会者の道祖土、衣装係の宇賀神。三人とも祝儀の不足を疑われている。服と荷物を調べても鍵はない。天井近くには、前撮り用の赤い小型風船が三個浮かび、細いリボンだけが照明の陰へ消えていた。

祝儀袋は一枚も開かれていなかったが、金庫の鍵が戻らなければ挙式後の精算は止まる。道祖土は式次第を握りしめ、宇賀神は新婦を別室へ移すべきだと訴えた。甲元は「風船は装飾で、鍵の重さには耐えない」と先回りして言った。私は一個の浮力ではなく、束ねられた三個を見た。

手掛かりは三つだけだった。第一に、化粧台の縁には赤いリボンの染料が付き、鍵を置いた位置から上へ細い擦れが伸びていた。第二に、三個の風船のうち一個だけ重りがなく、天井板の隙間へリボンを引き込んでいた。第三に、風船を膨らませ、鍵が消える直前に化粧台の脇で結び目を直していたのは甲元だった。

道祖土が脚立で天井板を押すと、上から小さな金属音がした。鍵ほどの重さなら一個では上がらないが、三個を束ねれば化粧台から天井裏まで持ち上げられる。

私は赤いリボンを引いた。三個の風船と一緒に鍵が降りてきた。「甲元さんは花火の音に合わせ、重りを外した風船束のリボンを鍵輪へ通して手を離した。染料と縦の擦れが上昇を、なくなった重りと天井の隙間が隠し場所を、結び目を扱った人物が実行者を示します。鍵はポケットへ入ったのではない。全員が床と衣服を探す間、頭上へ静かに逃げていたのです」甲元さんは鍵を持ち去るのではなく、式が終わるまで天井裏に保留するつもりだったのでしょう。風船は派手だからこそ背景として見過ごされる。上向きの傷を読めば、探すべき方向が床ではないことも最初から示されていました。