太陽光と目玉焼き
有年千晶と従兄の湯浅野兼は、祖父が設置した小さな太陽光発電所の収入を分けて暮らしている。
発電所といっても、家の裏の斜面にパネルが十二枚並ぶだけだ。
晴れれば少し働き、曇れば少し休む。二人より勤勉だが、天気には逆らわない。
兼は毎朝、発電量の画面を確認する。
「今日は好調」
「私たちも?」
「私たちは未計測」
千晶は昼近くまで寝ていた。
夏のある朝、兼が台所で目玉焼きを二つ作った。
黄身は片方が中央、片方が端へ寄っている。
「中央が私」
「先に起きた人が選ぶ」
「不労所得なのに成果主義」
「朝食だけ」
二人は縁側へ皿を運んだ。
太陽が強く、パネルは青黒く光っている。
白いごはんへ目玉焼きを載せ、醤油を垂らす。黄身を割ると、熱い米へ黄色がゆっくり広がった。
「曇りの日、心配にならない?」
千晶が訊く。
「少し」
「働きに行こうと思う?」
「そこまでは」
「私も」
二人は安心して味噌汁を飲んだ。
祖父は生前、「晴れた日は機械に任せて、畑を見ろ」と言っていた。
畑は今、近所の人へ貸している。代わりに、季節の野菜が玄関へ置かれる。
その日は胡瓜が五本届いていた。
二人で塩を振り、まな板の上で転がす。
「これも不労所得?」
「胡瓜は畑の労働所得」
「私たちの労働は?」
「板ずり」
三分だけ働いた。
午後、雲が出て発電量が下がった。
兼は画面を閉じ、千晶は窓を開けた。
風が入り、縁側の風鈴が一度鳴る。
二人は胡瓜をかじりながら、雲の形が何に見えるか話した。
「寝てる鯨」
「横向きの食パン」
「空腹だな」
「さっき食べた」
夕方、画面を確認すると、予想より発電していた。
「今日も働いてくれた」
兼がパネルへ向かって言う。
「明日は休んでもいいよ」
千晶も続けた。
翌日の予報は雨だった。
台所には焼いた卵と味噌汁、切った胡瓜の青い匂いが残る。
収入は天気次第で、二人の予定も天気次第だった。
雨なら、パネルと一緒に休む。
晴れなら、少し早く起きて、今度は黄身が端の目玉焼きを選ぶ。それくらいが明日の計画としてちょうどよかった。