奨学金窓口の銀色レシート

私立白嶺学院の事務長、伊集院環は、成績優秀な生徒の保護者へ「奨学金保証金」を請求していた。

「先に二十万円預ければ、卒業時に全額戻ります」

そんな制度はない。母子家庭の生徒は保証金を用意できず、推薦を諦めて退学届を取りに来た。環はその背中を見ながら「貧乏人が無理をするから」と笑い、集めた金で自分の応接室だけを改装していた。払えない家庭には、奨学金の推薦を取り消すと脅す。会計補助の真帆が規程にないと指摘すると、環は受付カウンターで書類を投げつけた。

「臨時職員が学院の方針に口を出さないで。問題になったら、あなたが偽の制度を作ったことにするから」

その日、真帆の担当する生徒の母親が、結婚指輪を売って作った金を持ってきた。封筒の角は何度も開いて確かめた跡で柔らかくなっている。母親は「娘には、お金を理由に夢を諦めさせたくない」と頭を下げた。真帆は受け取る手を止めたが、環が横から封筒を奪った。環は現金を数え、学院の印を押した領収書を渡す。

「品目は教材費にしておきます。奨学金と書くと監査が面倒ですから」

真帆は控えへ環の確認署名を求めた。環は《奨学金保証金として受領、会計外保管》と自筆し、得意げに銀色のレシートを切った。

翌月、理事会監査が始まった。環は、真帆が保護者から金を集め、偽領収書を発行したと証言する。

監査役は銀色の紙を光へかざした。学院の正式レシートには、発行端末と操作者の指紋番号が銀糸へ記録される。表示されたのは環の職員番号だった。

「端末を勝手に使われたのよ!」

環が叫ぶと、母親が録音を再生した。

――教材費にしておきます。監査が面倒ですから。

さらに、環が署名した控えが机へ置かれる。筆跡鑑定など必要なかった。署名時に押された指輪の傷まで、学院の防犯映像に映っていた。

理事長は環の前から学院印を取り上げ、処分書を開いた。

「伊集院環事務長。奨学金名目の詐欺および着服により、懲戒免職を申し渡します」