奴隷刻印の糸口

アルネは大競売場で、売られる奴隷たちの服を縫っていた。

逃げられないよう裾を短くし、番号札を胸へつける仕事だ。彼女自身の首にも古い刻印があり、主人の命令に逆らえば焼ける。

競売主ヴァルドは毎朝言った。

「針を持てるだけでも慈悲と思え。お前の技能に価値はない」

その技能を、アルネは誰にも詳しく試させてもらえなかった。

【固有スキル《ほどき》:縫い目の始点または終点をつかみ、連続する糸をすべて解く】

その日、鉱山奴隷三百人がまとめて競りに出された。

買い手の侯爵が、見本として幼い少年へ「自分の腕を折れ」と命じる。客席からは賭け金を告げる声まで上がった。アルネが止めようと一歩出ると、ヴァルドは彼女の刻印だけを先に焼いた。少年が泣きながら腕をつかんだ瞬間、母親が侯爵へ飛びかかった。

ヴァルドは笑い、全員の刻印を処刑強度へ上げる。

首輪と肌が赤熱し、悲鳴が競売場を満たした。

アルネの刻印も焼けた。

だが痛みの中で、彼女には赤い線が見えた。三百の首輪から伸びた命令は、床下の術式を通り、ヴァルドの指輪へ集まっている。別々の鎖ではない。一続きに縫われた、巨大な所有権の縫い目だ。

「跪け!」

命令に膝が折れかける。

アルネは自分の首の古傷へ針先を差し込み、皮膚の下から細い赤糸を引き出した。血が垂れても、もう手は震えなかった。ここが最初の奴隷だった彼女に刻まれた、契約の始点だった。

糸口をつまみ、一度だけ引く。

少年の首輪が外れ、母親の刻印が消える。次々と赤い線が床から抜け、三百人分の契約文が空中でほどけていった。

最後にヴァルドの指輪が裂ける。行き場を失った命令の糸は術者へ巻き戻り、彼の両手両足を縛って競売台へ転がした。

侯爵が護衛を呼ぶ。

しかし自由になった三百人と、売買記録を見ていた王国監察官が、同時に彼を取り囲んだ。

アルネは番号札を自分の胸から外し、ヴァルドの額へ縫いつける。

【職業《奴隷針子》が上位職《契約解縫師》へ書き換わりました】