子どもが数えた点滅

八神ひなたは、質問されるたびに指を三本立てた。

鹿島結芽巡査部長は、児童相談室の低い椅子に腰を落とした。ひなたの母が連行された夜、久慈巡査のボディーカメラ映像は玄関前で終わっている。警察は、電池切れのあと母親が暴れ、制圧が必要になったと説明した。母親の腕には紫色の痕が残り、ひなたは「おまわりさんが先にたたいた」と話している。

「三回って、何が三回だったの」

「ぴか、ぴか、ぴか」

「どこが光った?」

ひなたは自分の胸を指した。

「黒い四角。赤くなって、消えて、また赤くなった」

同席の児童担当者が首を振った。

「混乱しています。非常灯かもしれません」

久慈の機種は、録画停止ボタンを長押しすると赤灯が三回点滅する。電池切れなら、点滅せずに消える。結芽はマニュアルを見せなかった。誘導したと言われないためだ。

「そのあと、お母さんはどうしたの」

「『撮って』って言った。そしたら、おじさんが、もう壊れたって」

「ひなたちゃんは、なぜ三回を覚えているの」

少女は小さく歌った。

「みっつ光ったら、お願いできるって、ママが言ってた。流れ星みたいに」

結芽はペンを置いた。母親は警察への過去の相談を何度も取り下げていた。久慈は生活安全課長の甥で、署内では「厄介な親子を静かにさせた」と評価されている。上司からは、子どもの供述を正式記録にしないよう指示されていた。

面接後、久慈が廊下で待っていた。

「六歳の言葉を本気にするんですか。カメラは壊れた。修理記録もある」

「修理受付は翌々日です。停止操作の履歴は本体がなくても管理端末に残る」

「本体は廃棄された。何も証明できない」

「三回点滅することを、ひなたちゃんは知っていました」

「誰かに教えられたんでしょう」

結芽は答えなかった。教えたのが誰かという疑いは、子どもに向けられる。だからこそ、言葉を大人の都合で丸めてはいけない。

聴取記録の要約欄を消し、ひなたの言葉を一字ずつ、そのまま入力した。最後に録音データを証拠番号へ紐づける。

三本の指を立てた少女の写真は撮らなかった。

代わりに結芽は、記録の公開制限を解除し、監察室へ提出した。