孫を盾にした日

百瀬晴代は、初音が逆らうたびに孫の手を引いた。

「お母さんが謝るまで、こちらへいらっしゃい」

義父の克己は玄関を塞ぎ、夫の修吾は娘へ言い聞かせる。

「ばあばの言うことを聞かない母親は、家族じゃないんだよ」

初音は食事を作り、三人分の洗濯をし、娘を迎えに行く許可まで求めた。働きに出れば「母親失格」、家にいれば「稼ぎがない」と責められた。

初音が娘と家を出ると、晴代たちはすぐに監護者指定を申し立てた。

「嫁は情緒不安定です。孫は百瀬家で育てます」

修吾も同じ書面へ署名した。

家庭裁判所の調査面談で、晴代は完璧な祖母を演じた。娘に高価な服を着せ、初音を指さして尋ねる。

「誰と暮らしたいか、昨日練習した通りに言えるわね?」

調査官が顔を上げた。

面談室の隅に置かれた娘の小さな鞄から、録音機が見つかったのではない。音声を提出したのは、修吾自身だった。家族共有の育児アプリへ、娘の言葉を「証拠にするため」と毎晩録音していた。

『ママを困らせたら、おもちゃを買ってあげる』

『裁判でばあばを選ばないと、ママに会えなくなる』

『初音の貯金は、孫を育てる私たちが使って当然よ』

さらに、娘名義の教育資金九百万円が、晴代の車と克己の会員権に使われた記録が示された。初音の両親から預かった金だった。

修吾が慌てる。

「母さんが孫のために管理しただけです」

初音の代理人が請求書を提出した。

教育資金の返還、就労を妨害された休業損害、親子分離を繰り返した精神的苦痛。三人による共同不法行為として、慰謝料一千二百万円を含む総額二千九百万円。

克己は低く笑った。

「親族間の話に、差押えなどできるものか」

調査官の後ろから書記官が入り、二通の決定を置いた。

一通は、娘の監護者を初音と定める審判前の保全処分。

もう一通は、教育資金の流入先となった晴代の口座、車、克己名義の土地への仮差押命令だった。

晴代が娘の手を握ろうとする。

娘は初音の後ろへ回った。

修吾の携帯には、銀行から《対象資産の処分を停止しました》という通知が届いていた。