弔電の行

久世茉奈が花の通販会社で初めて受けたクレームは、葬儀会館からだった。

「故人の名前が違います。ご家族の前に、別の方への札が立っています」

画面には、白菊と薄紫のトルコキキョウを使った供花の注文。札の宛名だけが、次の行にある別注文のものになっていた。電話口の担当者は声を抑えていたが、その抑制がかえって重かった。

茉奈は謝罪し、すぐ作り直すと伝えた。隣の社員は「札だけバイク便。花は合っているから」と指示する。

だが注文票を確認すると、花の色も一段ずれていた。故人の家族は「白一色」を希望しているのに、届いたのは次の注文の薄紫入り。表計算ファイルで並べ替えた際、注文番号の列だけが固定され、札と色指定が一行ずつ滑っていた。

つまり、間違いは一件ではない。

茉奈は本日出荷分を止め、十一件を照合した。結婚祝いの札が法要へ、開店祝いの赤い花が病院へ向かいかけていた。すでに配送中の三件には車を戻してもらう。上司は受話器を押さえ、「全部止めると、時間指定に遅れる」と言った。

「違う名前で時間どおり着くより、正しい名前で遅れる理由を説明します」

茉奈は会館へ向かう便に同乗した。車内で新しい札を手書きし、白菊だけの小さな差し替え花を束ねる。会館に着くと、最初の札は布で覆われていた。焼香の列が途切れるまで入口で待ち、参列者の目の前で慌ただしく差し替えないよう、会館担当者と時間を合わせた。

遺族の女性は、新しい札の文字を指でなぞり、「母は紫も好きでしたけどね」と静かに言った。その優しさに甘えず、茉奈は間違った経緯と再発防止を伝えた。

会社へ戻るころには夜だった。茉奈は注文表を、行で並べ替えられない形式へ変更し、出荷前に札と写真を同じ画面で確認する欄を作った。

次の朝一番の注文が入る。備考には〈故人が育てた黄色い花を一本〉とあった。

上司が「昨日の今日だし、別の人に回す?」と尋ねた。

茉奈は注文を自分の担当欄へ移した。

「今度は、備考まで私が見届けます」