押すだけで開く百人の扉
収穫祭を三日後に控え、王立劇場の避難試験は最悪だった。二百人の役者が出口へ押し寄せると、内側へ開く扉の前で人が詰まり、最後の一人が出るまで三分四十秒。火災なら半数が煙に巻かれる。
劇場主は扉を倍の幅にすると言った。工期は一月、祭には間に合わない。
元イベント会場設計者のミレトは、蝶番を指さした。
「幅ではありません。開く向きです」
職人たちは半日で蝶番と戸当たりを反転させ、二枚の扉が客席側から外へ開くようにした。見た目はほとんど変わらない。
劇場主は眉をひそめた。
「それだけか」
「同じ二百人で試してください」
太鼓が鳴る。
前列が扉へ着くと、押された力そのものが扉を開いた。立ち止まって取っ手を引く者はいない。人の流れは川のように外へ続き、最後の役者が敷居を越えたところで砂時計を止めた。
五十二秒。
もう一度、三百人で試す。結果は一分十九秒。倒れた者はゼロだった。扉の前に置いた白墨の円も踏み荒らされず、人が団子になる場所自体が消えていた。
劇場主は、増築用に用意した金貨袋を閉じた。必要だったのは蝶番八枚と職人四人の半日だけだ。
収穫祭の総監督が客席から降り、王都の公共施設一覧を広げた。学校十四、集会所九、競技場三。
「祭の前に、まず劇場を合格とする」
貴族席の管理人は、外開きでは廊下の邪魔になると反対した。ミレトは扉の前だけ通路を空け、床に白線を引いた。これも新しい設備ではなく、扉が動く範囲を荷箱で塞がないための確認だった。
二度目の試験では、わざと最後列に煙役の黒布を広げた。役者たちは本気で走ったが、最前列が扉を引くために逆らう瞬間がなく、流れは一度も止まらない。以前の試験で肩を痛めた少女役者も、誰にも押し潰されず外へ出た。劇場医が脈を測り、転倒者も打撲者もゼロと記録する。祭の中止で失うはずだった売上は金貨二千枚。蝶番の改修費は二十枚だった。
続けてミレトへ金の通行証を渡した。
「残る二十六施設も、あなたの指示で扉を外開きに改修せよ。王都安全監督官に採用する」