採掘場の命綱に残る刻印
竜晶鉱山の足場で、監督ザハムはケイル・バートンの命綱へ小刀を当てた。
「歩みが遅い。少し怖い目を見れば、手も速くなるだろう」
「切れば規定違反です」
「誰が信じる? 新人が結び方を間違えた。それで終わりだ」
繊維が半分まで裂かれた。ザハムはケイルの背を叩き、崖際の採掘口へ向かわせる。普段から彼だけに古い道具を渡し、昼の水を抜き、採掘量が足りないと皆の前で泥を浴びせていた。
ケイルが三歩進んだところで、命綱が切れた。
身体は落下したが、下段の安全網が受け止めた。巡回中の鉱山監査官が、異音に気づいて網を作動させたのだった。ケイルは腕を擦っただけで立ち上がり、最初に切れた綱を誰にも触れさせず監査官へ渡した。
地上へ戻ると、ザハムは先に事故報告書を書いていた。
「本人の結索不良です。私は朝、正常だと確認しました」
彼は監督者欄へ署名し、黒い印章を押した。
監査官は切れた綱を机へ置く。
「確認したのなら、この綱の規格もご存じですね」
竜晶鉱山の命綱には、刃物や魔力が触れた際、その形を繊維へ焼きつける安全刻印がある。ザハム自身が事故対策研修で導入を提案したものだった。
監査官が綱へ光を通す。
裂け目に、小刀の輪郭が赤く浮かんだ。柄の部分には〈監督官支給・第七号〉の文字。ザハムの腰から下がる小刀と同じ番号だった。
「盗まれたんだ!」
「では、掌紋も見ましょう」
光が強まり、柄を握った手の刻印が浮かぶ。ザハムは反射的に自分の右手を隠した。
事故報告書には〈私は命綱に刃物で触れていない〉という誓約文もあり、その下に彼の署名がある。
ケイルは安全網から拾った小さな竜晶を机へ置いた。落下の瞬間に砕けた留め具だった。
「これも交換を申請しました。三度、監督に却下されています」
申請書の却下印も、すべてザハムのものだった。
監査官は鉱山主へ報告書を渡す。鉱山主は一読し、入口で待つ衛兵へ合図した。
「ザハム・ロッグ。殺人未遂および安全記録偽造の容疑で、拘束を命じる」