探しものは発見済み
桐生結月が机の下へ手を伸ばすと、スマートフォンが甲高く鳴った。
〈タグを発見しました〉
「そこに置いたの、結月でしょ」
藤村颯太が笑う。
「最後の動作確認」
小峰凛々は笑わず、壁の利用停止通知を剥がした。
三人の〈ミツケル〉は、財布や鍵に小さな発信タグを付け、近くの利用者同士で位置を共有する仕組みだった。紛失物の発見報告が増えるにつれ、知らない人の移動まで地図に映るようになった。元恋人の鞄へタグを忍ばせた利用者が出て、大学は支援を打ち切った。
「タグは悪くない」と颯太。
「包丁の会社みたいなこと言わないで」と凛々。
「使い方まで全部、作った側の責任?」
結月はタグの電池を抜いた。
「全部じゃない。でも『便利です』だけ言って売った分は、私たちの責任」
颯太は家電メーカーの開発職へ行く。
「次は、見つける機械じゃなく、勝手に見られない機械を作る」
凛々は大学図書館に就職する。
「探している本を教える。誰が何を読んだかは、必要以上に残さない」
二人が結月を見る。
「私は美大へ編入する」
「工学部から?」
「地図に人の点を置くの、もう嫌。誰も追跡できない絵を描く」
机には試作品が百個あった。販売できず、廃棄には電池を外す必要がある。三人は黙って小さな蓋を開けた。ぱち、ぱち、と爪が外れる音が、雨のように続く。
作業の途中、颯太の画面に通知が出た。
〈近くに不明なタグがあります〉
三人は手を止めた。探すと、空いた四脚目の椅子の裏に初期型が貼られていた。起業支援室の備品が盗まれないよう、創業日に付けたものだ。誰も存在を覚えていなかった。
「私たちが最初に追跡したの、椅子だったんだ」
凛々が剥がし、机へ置いた。
退出するとき、結月はその一個だけ電池を抜かなかった。廊下を離れるほど通知音は弱くなり、角を曲がると消えた。
無人の部屋で、椅子の裏から剥がされたタグは緑色に点滅していた。探しものは発見済みなのに、持ち主へ戻すボタンを押す人はもういなかった。