敗戦参謀の盤上に残る駒

参謀シャノンの作戦で、王国軍は砦を一つ失った。

敵が夜の河を渡ると読めず、東門の兵を動かした隙を突かれたのだ。実際には偽の水位報告が届いていたが、敗戦の責任は若い参謀一人に集められた。

軍議室から名札を外す日、三人の指揮官が現れた。

黒鷲騎兵団長レオニスは、指揮刀を盤の横へ置いた。

「次の布陣を君に任せる。刀は決定権の印だ」

海軍提督ウルスラは、円卓の自分の隣から椅子を引いた。

「陸が嫌なら海へ来なさい。潮を読む席を空けている」

自由都市の守将ディオンは、城外に停めた馬車の窓を開けて待っていた。

「どこにも属したくなければ、私の町まで送る。客室は期限なしだ」

敵同士に近い三勢力からの勧誘に、シャノンは言葉を失う。

三人とも勝利だけを約束しなかった。退却路を決める権利、意見を保留する時間、失策を一人に背負わせない議事録まで示した。以前の軍議で与えられなかったものばかりだった。

その最中、国境から急報が届いた。敵軍が再び河畔へ集結。将軍たちは逃げた責任者の代わりに、シャノンへ即席の防衛案を求めた。

彼女は盤へ駒を並べたが、手が震え、一つを逆の門へ置いた。

伝令はそのまま命令書を書き始める。

「待って、違う!」

間違いに気づいた瞬間、シャノンは三人の視線から顔を背けた。

「また兵を死なせるところだった。私を誘う価値なんてない。皆さんはもう戻ってください」

椅子が鳴り、刀が持ち上がる。捨てられる音だと思った。

だがレオニスは指揮刀で誤った駒を弾き、ウルスラは河の水位表を盤へ重ね、ディオンは伝令から未完成の命令書を取り上げた。

「命令前に止めた」とレオニス。

「今度は三つの資料で確認した。敗戦から学んでいるわ」とウルスラ。

ディオンは馬車の鍵を盤の中央へ置く。

「正しい参謀は間違えない者じゃない。間違いを軍令にしない者だ」

三人は元の席へ戻った。

刀は盤の横にあり、隣席は空き、馬車は夜になっても門外にいる。どの軍旗を選ぶか迫る者はいない。

シャノンが倒した王の駒を立て直すと、その周りには三色の駒が残り、彼女の帰る陣地を囲んでいた。