敵より先に目を閉じる

シェルミは敵が現れると、目を閉じた。

鎧が擦れる音、魔力が空気を押す音、床へ落ちる砂の向き。見えないものを聞き分け、仲間へ短く知らせる。

それでも成果板の貢献は5%。隊長ロクサンは、目を閉じる姿を居眠りと呼んだ。

「戦場を見る勇気もない者に分け前はない」

シェルミは観測役を外され、後方の扉番へ回された。

その日、現れたのは鏡鎧の騎士だった。こちらの動きを見た瞬間に真似し、同じ剣筋、同じ魔法、同じ防御で返してくる。

ロクサンは速さで上回ろうとした。だが鏡鎧はもっと速く同じ動きを返す。火球には火球、斬撃には斬撃。仲間は自分の得意技に追い詰められた。

扉の向こうで金属音を聞いていたシェルミは、目を閉じたまま広間へ入った。

「何をしている。見るな!」

ロクサンが怒鳴る。

「見ていません」

彼女は鏡鎧が剣を上げる前に、床を蹴った。仲間へ攻撃ではなく、武器を落とすよう告げる。誰も動かなければ、鏡鎧も動かない。

静寂の中で、かすかな軋みだけが鳴った。

シェルミはそこへ小石を投げる。鏡鎧の背中に隠れていた操り虫が飛び出し、扉へぶつかった。敵は見た動作を真似していたのではない。視線を通じて先回りしていたのだ。

操り虫が落ちると、鏡鎧はただの重い殻になった。ロクサンは最後まで目を開けていたのに、本体を見つけられなかった。シェルミは目を閉じたからこそ、敵が隠した音を拾った。仲間は彼女の沈黙を居眠りではなく、観測の姿勢として見直した。

帰還後、ロクサンは自分が動きを止める作戦を考えたと言った。観測腕輪は発言を遮り、過去の戦闘音を再生した。敵が息を吸う前の警告、罠が沈む前の合図、詠唱が崩れる前の訂正。シェルミが目を閉じるたび、仲間の生存する道が開いていた。

彼女は隊長席へ座らず、全員の前で目を閉じる。

今度は誰も笑わなかった。

《観測貢献・真正算定》

申告値:5% → 真値:95%

働き順位:首位 シェルミ

役割更新:扉番 → 戦術観測長

旧隊長ロクサン:動作模倣訓練生