新しい鍵は三本

晴海は、返された合鍵を三日間、玄関の皿に置いていた。

恋人は封筒に入れ、「これで全部」とだけ書いた。傷の位置まで見覚えがある鍵なのに、見れば見るほど複製がある気がした。

マンション管理会社に勤める珠里は、鍵を替えろと言った。

「そこまでしなくても。別れ方は普通だったし」

「普通でも複製はできる」

「彼を犯罪者みたいに扱いたくない」

「彼を評価してるんじゃない。晴海が眠れる設備にするだけ」

晴海は人を疑うことが苦手で、珠里は人柄より仕組みを信じる。二人は何度も同じ議論をした。結局、費用を聞くだけという約束で業者へ電話した。

当日、業者は玄関でシリンダーを外し、金属の筒を白い布の上へ置いた。十分ほどで終わる作業だった。

新しい鍵を三本渡され、晴海は多すぎると思った。

「一本でいい」

「予備は必要」

「誰かに預けるの?」

「貸金庫でも、封印して実家でも」

珠里は自分が預かるとは言わなかった。そのことに晴海は少しだけ安心した。友情を、新しい監視役にしたくなかった。

晴海は費用の半分を珠里へ払おうとした。珠里は受け取らず、代わりに領収書を保管しろと言った。晴海は借りを作りたくないと主張し、結局、出張費だけを送金した。親切の形まで二人は一致しなかった。

業者が帰ると、古いシリンダーが机に残った。賃貸契約上、退去時に戻す必要がある。

珠里は袋へ入れ、日付と部屋番号を書いた。晴海は返された合鍵も同じ袋へ入れようとしたが、手が止まった。

「これはどうする?」

「金属ごみ」

「まだ使えるのに」

「もう、どこも開かない」

二人でベランダのごみ箱まで歩いた。晴海が鍵を落とすと、底で小さな音がした。思ったほど響かなかった。

部屋へ戻り、新しい鍵を差し込む。最初は固く、晴海の手では回らない。

珠里が潤滑剤を出し、鍵穴へ一滴だけ入れた。

「力じゃなくて、まっすぐ」

晴海が鍵を持ち、珠里がドアを手前へ引く。二人で同時に少し動かすと、錠が軽く回った。

珠里が帰ったあと、晴海は内側から一度施錠した。

皿の上には、誰の鍵もなかった。