旅人料金は二倍です
街道町リュネの共同浴場は、建つ前から旅人に嫌われた。
予定表に「住民一枚、旅人二枚」と書かれていたからだ。宿屋組合は、客を差別すれば町の評判が落ちると領主フィオナへ抗議した。
「湯の温度も桶も同じです。なぜ二倍なんです?」
フィオナは帳面を二冊並べた。
「住民は毎月、井戸修繕税を一枚払っています。浴場はその井戸を使う。旅人は月税を払わないので、入浴時に一枚分を足します」
料金を高くして儲けるのではない。住民がすでに払った分を二重に取らず、旅人にも使う分だけ負担してもらう。旅人の追加一枚は井戸口の修繕箱へ入り、浴場の売上とは別に数える。
さらに彼女は入口に三つの数字を掲げると約束した。今日の入浴者、使った薪束、井戸修繕箱の残高。宿屋にも同じ写しを置き、客が確かめられるようにする。
「それなら、二枚でも安い」と古参の宿主が言った。「うちで一人分の湯を沸かせば五枚かかる」
組合の空気が変わった。宿主たちは旅人へ説明する札を自分たちで書き、余った石鹸を共同購入した。馬車屋は夜の客を無料で送ると申し出た。フィオナは特別免許を餌に命じたわけではない。仕組みが宿にも客にも得だと、皆が自分で計算しただけだ。
開業初日、遠国の商人が看板を見て眉をひそめた。
「二倍とは強気だな」
宿主は井戸税の領収札を見せた。商人はしばらく読み、銅貨を二枚置いた。
湯から上がった彼は、三つ目の数字が一枚増えるのを見届けると、自分の手拭いを軒先に干した。
商人は翌朝、三つの数字を書き写して隊商仲間へ見せた。二枚のうち一枚がどこへ行ったか説明できる町は珍しいという。宿屋には『高い湯』という苦情ではなく、『理由の分かる湯』という旅人の書き置きが増えた。住民も、井戸税を払っていることを初めて誇らしく話した。見えない負担は不満になるが、見える一枚は町への参加証にもなった。
その隣には住民の手拭いが並ぶ。料金は違っても、湯気の中で乾く速さは同じだった。