日蝕の旗竿

アマルカは旗を外し、裸の竿を広場へ立てた。

高地の都では、旗竿の影で刻を読む。影が東の白石へ届けば日没、城門は閉じる。今夜までに退却軍を入れなければならないが、山道を下る二百人はまだ半里先だった。

敵将サユルの槍兵は、その背後まで迫っている。

「門を開けたままでは、敵も入ります」

老祭司トゥパイが言った。

「閉じれば味方が死ぬ」

「では城外で迎え撃つしか」

アマルカは空を見た。太陽の右端が欠け始めていた。年に一度の日蝕。敵も知っている。暗くなれば門が閉じると読み、退却軍が締め出される前に急ぐはずだ。

旗竿の影はまだ白石まで三歩ある。

アマルカは竿の根元へ黒曜石の板を差し込んだ。磨かれた面が光を折り、地面にもう一本の影を作る。偽の影は白石へ届いた。

城壁の見張りが戸惑った。

「日没の影です」

「まだ日がある」

「敵からは、広場の影しか見えない」

サユルは山向こうの物見台から、都の門を監視している。影が白石へ届けば、門を閉める合図が鳴る。そう見せれば敵は焦り、隊列を崩して坂を駆け下る。その瞬間、退却軍との距離は縮むが、長槍は急坂で使えなくなる。

「味方も門が閉じると思って走ります」とトゥパイ。

「走らせる。疲れた足には恐怖が一番効く」

鐘が鳴った。都の民は日蝕を恐れ、屋根の下で鉢を打ち鳴らした。空を食う獣を追い払う音が、兵の足音を呑み込む。城門が半分まで下がる。山道の味方が叫び、盾を捨てて走り出した。敵も追って駆ける。狙いどおり、槍列が縦に伸びた。

アマルカは塔上の投石兵へ手を上げた。攻撃の目標は敵ではない。道脇に積んだ白い石垣だった。

「今落とせば味方も巻き込む」と祭司。

「先頭だけ通す」

敵の先頭は速すぎて、後ろから押されて止まれない。退却軍が門前の赤線を越えた。最後尾の若者が転び、敵の槍が背に迫る。アマルカは黒曜石を蹴り外した。偽の影が消え、本当の影が現れる。

味方の最後尾が赤線を這い越えた。

彼女は上げていた手を握った。

「石垣を落とせ。門を開き切れ」

号令と同時に、都の金門が地響きを立てて上がった。