最後に白かった男
碧井トキマの腹を刺したPK《セラフ》の名前が、すぐ白へ戻った。
《行動色》
対人ダメージを与えると赤。
他者を回復すると白。
表示色は最後の対人行動だけを示し、履歴は消去しません。
セラフはトキマへ一ポイントだけ回復した。
「見ろ。俺は白名だ。お前が勝手に怪我した」
町の警備は現在色しか見ない。過去三十七人も、刺された後で治療され、証拠なしと扱われた。
トキマは傷を押さえながら笑う。
「善人なら、もう一度治して」
「十分だろ」
「白いままでいたいんじゃないの?」
周囲に人が集まる。セラフは仕方なく治療を使い、また白を確定する。
トキマは公開対戦盤を開いた。
《行動色の履歴を開示しますか》
開示には当事者双方の同意が必要。
「押せるよな。白なんだから」
セラフは拒否すれば疑われる。承認すれば過去の赤が見える。
「システムは最後しか記録しない」
「説明には、履歴は消えないってある」
群衆の視線が集まる。
セラフは逃げようとするが、白名のままなら警備区域で攻撃も転移もできない。赤になれば即拘束。彼は自分で作った白い檻に閉じ込められた。
最後に承認を押す。
空へ、赤、白、赤、白の履歴が三十七組並んだ。どの被害者も刺された一秒後に一ポイント治療されている。
「最後は全部、白だ」
セラフが言う。
「最後だけ見ればね」
《現在色:白》
《累積敵対行動:三十七》
履歴を見た被害者の一人が、群衆の後ろから進み出た。
「あなたに治してもらった一ポイントを、ずっと恩だと思おうとしてた」
セラフは笑い返せない。
赤と白が交互に並ぶ履歴は、善悪が半分ずつだった証明ではない。白になるため、赤の直後に必要最小限だけ触れた回数だった。
トキマは現在色の白を消そうとしない。
「そのままでいい。白い名前で拘束されれば、色だけじゃ分からないって皆が覚える」
警備NPCは今回から累積履歴も参照するよう更新される。町の色分けは残ったが、誰もそれを人格の色とは呼ばなくなった。
《市民資格を停止――白名は善人の証明ではなく、直前に傷口へ触れた者の表示です》