最終巻だけない
水主町小春たち四人は、最終巻のない物語を三年間読んだ。
図書室の棚には、全十二巻の冒険小説が並んでいた。ただし十二巻目だけ、いつ見ても貸出中だった。
一年の夏、小春が一巻を借りた。翌週には友人三人も読み始め、昼休みの話題は物語のことばかりになった。
十一巻まで読んだところで、全員が止まった。
「十二巻、誰が借りてるの」
司書に訊くと、返却期限を二年過ぎているという。借り主へ連絡しても返事がない。
そこで四人は、自分たちで結末を決めることにした。
金曜の放課後、図書室の隅へ集まり、一人ずつ最終回を語った。
小春は主人公が故郷へ戻る話。茉子は全員が王になる話。柊平は敵が実は兄だった話。裕大は「宇宙人が全部やった」で終わらせ、三人に却下された。
結論は出なかった。
二年になっても、十二巻は戻らない。
四人は文化祭で勝手に『幻の最終巻展』を作り、それぞれの結末を原稿用紙へ書いた。来場者にも続きを募集し、百通以上集まった。
三年の冬、図書委員が小春を呼んだ。
「返ってきたよ」
カウンターに、十二巻が置かれていた。
表紙は色褪せ、角が潰れている。借り主だった卒業生が、引っ越しの荷物から見つけて送ってきたらしい。
四人は放課後の図書室へ集まった。
誰が最初に借りるか、じゃんけんをするはずだった。
けれど誰も手を出さなかった。
「読んだら、終わるね」と茉子が言う。
「最初から終わってる本だけど」と柊平が言う。
「宇宙人だったらどうする?」と裕大が言う。
小春は十二巻を開きかけ、閉じた。
「卒業式の日に、四人で読む?」
全員が頷いた。
卒業式のあと、図書室は閉まっていた。司書が鍵を開けてくれ、四人はいつもの机へ座った。
一頁ずつ回し読みする。
本当の結末は、四人が考えたどれとも違った。主人公は故郷へ戻らず、王にもならず、兄とも戦わない。旅の途中で出会った仲間と、新しい町をつくった。
最後の一行を読み終え、裕大が言った。
「宇宙人、出なかったな」
四人で笑った。
小春が覚えているのは結末そのものではない。
三年間も貸出中だった一冊を囲み、読み終わったあとも誰一人立ち上がらなかった、卒業式の静かな図書室だった。