柩に入れない花

柩のそばで、小さな青い花が光っていた。

葬祭ホールで沢渡美冬が最後に担当する家族は、亡くなった女性の好きだった青を柩いっぱいに入れたいと希望している。告別式が終われば、鞄の退職届を支配人へ渡すつもりだった。花店から届いた籠には、青く染めた生花と、光る小さな飾り花が混ざっていた。

その飾りは、女性が毎年見に行った冬のイルミネーションを長女が再現したものだった。白檀の香りの中で、小さな光が呼吸するように明滅している。美冬は、ただ規則を告げて取り上げるには、大切すぎる品だと思った。

蓋を閉じる直前、美冬は飾り花の茎に細いコードを見つけた。中心にはボタン電池が入っている。火葬炉へ入れられない品だ。さらに青い花の一部は、金属線で形を固定したプリザーブドフラワーだった。

「家族に言わず、裏で抜けばいい」

支配人は囁いた。時間が押している。新人の海斗は、すでに花を柩へ並べ始めていた。

美冬は手を止めた。

「最後に選んだものが、知らないうちに捨てられる方がつらいです」

遺族へ、入れられない理由を短く伝えた。長女は一瞬顔をこわばらせたが、「母が好きだった光まで消えるんですね」と呟いた。

美冬は飾り花を抜くだけにしなかった。光る花は祭壇の写真の前へ移し、青い生花だけを茎から外して、家族一人ずつに渡した。最後の一輪は、電池を外した飾りの中心へ重ね、出棺まで写真の隣で光を受けるように置いた。

海斗には、柩へ入れられない品の一覧を確認させた。

「覚えていなくても、迷ったら止めて聞いて。急がせる声より、家族の後悔の方が長く残るから」

長女は青い花を柩へ置き、「説明してくれてよかった」と言った。出棺時刻は四分遅れただけだった。

支配人は片づけの途中で、〈持込品は職員判断で除去〉という従来の手順を指した。

「今日の説明は例外にして。毎回話せば式が遅れる」

美冬は例外報告ではなく、家族へ選択肢を伝える新しい確認文を残した。夜中に呼び出され続け、別れを急がせる側へ慣れる働き方には戻らない。

退職届を渡し、昼間だけ開く弔い花の工房から届いた採用メールへ、勤務開始日を返信した。