検索結果の一行
倉橋ノアの曲にはない一行が、検索結果にだけ残っていた。
音楽アーカイブの管理人・石動夕紀は、失踪したネット作曲家ノアの作品ページを整理していた。最後の投稿『ROOM 404』は二分四十四秒。歌詞は「壁」「夜」「鍵」という単語で終わり、最終行は空欄だった。
ところが曲名を検索すると、要約欄に一語だけ出る。
〈見つけて〉
ページを開けば消える。キャッシュを削除しても、翌日には戻った。
ノアと夕紀は、曲の中へ隠した手掛かりを探す遊びをしていた。初めて会った配信でも、彼は笑った。
「見つけて。俺がどこに音を埋めたか」
夕紀は誰より早く答えを当て、やがて共同管理人になった。だがノアが別の歌い手と組むと知り、管理権限を使って新曲を削除した。問い詰めに来た彼と防音室でもみ合い、倒れた頭がラックの角へ当たった。
救急車は呼ばなかった。防音室の内壁を外し、吸音材の奥へ遺体を隠した。失踪を演出し、『ROOM 404』の最後の歌詞も公開前に消した。その後は自分で捜索タグを作り、心配する管理人を演じた。更新のたびに再生数が伸びるのを見て、ノアは失踪してからの方が価値を持った、とさえ思った。
夕紀は検索会社の古いキャッシュを開く。削除前のページが一瞬だけ表示された。最終行には、やはり同じ一語が残っていた。
曲を再生すると、イントロのクリックが四回、次に三回、最後に四回鳴る。部屋番号ではない。防音壁を固定するネジの位置だった。ノアは投稿予約の直前、夕紀が席を外した隙に、自分の居場所ではなく、作品の原本が隠される場所を示す音を入れていた。
検索窓の候補に、警察の捜索記事が上がる。アーカイブのキャッシュ提供を受け、管理室へ向かっているという。
廊下で電動工具の音がした。四回、三回、四回。壁のネジが外される。
「見つけて」
それは新曲の仕掛けを解いてほしいという、二人の遊びではなかった。
消された作曲家そのものを、壁の中から見つけろという最後の依頼だった。