毒味役の鏡割りプラリネ
王宮毒味役リュネは、菓子店〈蜜鏡〉の椅子に座っても手袋を外さなかった。
「甘い菓子を一つ。甘いと分かるものを」
十歳で毒感知の加護を得て以来、舌は毒だけを強く感じる。安全な料理は灰の味、毒があれば針のような苦味。王族を何度も救ったのに、宴席では誰もが彼女を便利な銀匙として扱った。明日の祝宴でも百皿を確かめる。だが最近、何を食べても毒の気配ばかり探し、空腹なのか恐怖なのかさえ分からなくなっていた。
祝いの席で料理人が褒められるたび、彼女の仕事は〈何も起こらなかった〉の一言で消える。毒を見つければ称賛され、安全なら忘れられる。だから舌はますます危険だけを探すようになった。リュネは手袋の下で指を握り、せめて一度、自分のために味を選びたいと思っていた。
店主ハロルは、鏡のように光る四角いプラリネを一つ出した。中央に細い割れ目がある。
「鏡割りプラリネです。半分は毒を映し、半分は味をそのまま返します」
「毒が入っていれば?」
「左半分だけが苦くなる。右半分まで苦ければ、代金はいりません」
リュネはまず左をかじった。舌の上に鋭い苦味が走り、反射的に吐き出しかける。
「入っている!」
「それはあなたの加護が映った味です。次をどうぞ」
疑いながら右半分を口へ入れた。
薄い殻が割れ、温かなカカオと木苺の酸味、最後に蜂蜜の甘さが広がった。針も灰もない。リュネの手から、初めて手袋が落ちた。
「これが……甘い」
彼女は目を閉じ、長い時間をかけて飲み込んだ。そして銀匙で皿の欠片まで集めた。
「安全ですか、と聞かないのですね」
「もう分かります。苦味がない。だから安全で、甘い」
その二つを同時に言えたことが、何より嬉しそうだった。
リュネは銀貨一枚の値札に、王宮の小金貨を重ねた。
「明日の祝宴へ百個。毒を見つけるためではありません。安全な皿を、安全だと味わうために」
手袋を鞄へしまい、素手で扉を押して出ていく。
ハロルが割れた鏡色の包み紙を畳むと、ちりん、と店のベルが鳴った。