毒瓶が覚えていた声
冒険者ギルドの治療室で、薬師ミアベル・ソーンは仲間を毒殺しかけた犯人とされた。
討伐帰りの剣士が飲んだ回復薬から、眠り毒が検出されたのだ。毒瓶はミアベルの鞄にあり、調合台にも同じ粉が散っていた。
「名声を独占するため、負傷者を増やしたかったのだろう」
上級薬師ロシュ・ベイグは、彼女の薬師章を床へ落とした。
「見習いからやり直す機会さえ与えない。犯罪者として追放だ」
ロシュは押収目録へ署名し、毒瓶を審問官へ渡す。
ミアベルは瓶に触れずに言った。
「栓を開けたのは、どなたですか」
「私だ。証拠確認のためにな」
「最初にです」
「おまえに決まっている」
王都で毒物を売る瓶には、《誓い栓》が使われる。最初に栓を抜いた者の魔力と、その瞬間の七秒間の音を保存する。事故の際に流通経路を追うため、ロシュ自身が規制強化を提案したものだ。
審問官が栓へ指を置く。
浮かんだ魔力紋は、ロシュ。
続いて声が流れた。
『半分を回復薬へ。残りはミアベルの鞄に入れろ。あの娘を消せば、治療依頼は全部こちらへ戻る』
助手へ命じるロシュの声だった。
「栓を交換された!」
「交換不能の構造だと、あなたが認証しています」
審問官が彼の署名入り申請書を示す。
さらに押収目録には、ロシュが〈未開封の毒瓶を鞄から発見〉と記していた。自分が証拠確認で開けたという、たった今の発言とも食い違う。
剣士はすでに解毒され、隣室で一部始終を聞いていた。ミアベルは床の薬師章を拾い、埃だけ払う。
ギルド長が黒い処分札を読み上げた。
ロシュはこれまでにも、治療に失敗した見習いへ毒物管理の責任を押しつけていた。壁際にいた若い薬師たちが、同じ形式の押収目録を一斉に差し出す。どれにも「未開封を発見」と書きながら、発見者はロシュ一人だった。今回の瓶は、彼が積み上げた嘘をまとめて開ける栓になった。見習いたちは初めて顔を上げ、ミアベルの隣へ並んだ。
「ロシュ・ベイグ。薬師資格を永久剥奪し、毒殺未遂の容疑で王都衛兵へ引き渡す」