水面がそろう透明な管
十二段の棚田を持つアルディ村では、上の三枚だけが湖になり、下の四枚には一滴も届かなかった。
水門番は「高い畑ほど領主に近い」と言って賄賂を取り、流れの偏りを地形のせいにする。下段の農家は田植えを諦め、村を出る支度を始めていた。
綱島周は、透明な獣腸管と色をつけた水を持って水門へ来た。
「管で丘の高さを測る? 目があれば十分だ」
水門番ダグロは笑う。だが、その目で作った分岐路は、一見平らでも端と端で拳二つ分ずれていた。
周は長い管へ水を満たし、両端を開けて杭へ沿わせた。片方を基準の水門へ、もう片方を分岐口へ立てる。離れていても、管の両端の水面は同じ高さで止まる。
周は水面の位置へ白い線を引き、十二の分岐口を同じ高さに削り直した。魔法も勘も使わない。透明な管の水面だけを基準にした。
「下段へ流せば上段が枯れる」
ダグロは最後まで止めようとした。
周は総水量を変えず、正午の鐘で主水門を開けた。
以前は一段目へ水が溢れ、十二段目へ届くまで二刻かかった。今日は細い流れが十二の分岐へ同時に入り、七分後には最下段の目盛り板まで水が来た。十五分後、すべての田で水深が指二本にそろった。
上段も溢れていない。流れを奪ったのではなく、入口の高さをそろえたから、同じ圧で分かれただけだった。
村長は十二枚から水を一瓶ずつ取り、秤の横へ並べた。量の差は最大でも匙二杯。去年は上段一瓶に対し、下段は瓶底だけだった。
「その管に水を増やす魔術がある!」
ダグロが管を切った。中から落ちたのは色水一杯だけ。田へ流れた水量とは何の関係もない。
領主の監察官は、切れた管より水門番の袖から落ちた賄賂札を拾った。
ダグロの鍵を没収し、周へ十二段分の水門図を差し出す。
「村だけでは足りない。谷の四十八分岐を、この水面でそろえよ。工事費と水門番の給金は君が管理する」
最下段の農家が、捨てかけた苗束をもう一度水へ浸した。