氷河湖の一匹

炎術師セレネへの罰は、雪に閉ざされた辺境の湖だった。

王都では彼女の炎を「兵器としては弱い」と笑った。煮炊きや暖房に向いた穏やかな火しか出せなかったからだ。そこで王は、凍った土地なら少しは役に立つだろうと、半ば冗談で彼女を追放した。

初日、セレネは小屋の床を直さず、雪原の先にある湖へ向かった。

氷は厚く、下には魚影が見える。今日の仕事は穴を一つ開けること。彼女は掌を氷へ当て、炎を細く絞った。戦場では広く燃やせと命じられた力を、茶碗ほどの円へ集中させる。

焦らず温めると、氷は割れずに丸く溶けた。縁は滑らかで、透明な水が黒い鏡のように現れた。

穴のそばへ敷くものがなく、セレネは追放状の入っていた革袋を尻の下へ敷いた。王印の跡が雪で濡れたが、もう気にしない。王都では炎の温度を数字で競わされた。ここで必要なのは、凍傷にならずに魚を待てる程度の温かさだった。

枝へ糸を結び、パン屑を付けた針を垂らす。雪は音を吸い、聞こえるのは穴の水が揺れる微かな音だけだった。

やがて糸が震えた。

釣り上げたのは、指二本分ほどの公魚だった。小さい。だが氷の下で生き抜いた銀の体は、王都の勲章より眩しく見えた。

セレネは穴を木蓋で塞ぎ、小屋へ戻った。公魚へ粉を薄くまぶし、浅い鍋の油へ落とす。ぱちぱちと軽い音が弾け、冷え切った部屋に香ばしい匂いが満ちた。隣の鍋では根菜のスープが煮え、白い湯気が窓の霜を曇らせる。

その窓を、伝令鳥が嘴で叩いた。王都が大寒波に襲われ、城の暖房炉が止まったという。帰還命令の赤い筒が脚にある。

セレネは鳥を中へ入れ、筒だけ外した。開かずに棚へ置き、鳥にはパン屑を分ける。

「弱い火でいいなら、もっと早く言えばよかったのに」

揚がった公魚を一匹、塩へ転がす。頭から食べると、さくりと音がして、熱が舌から胸へ広がった。

鳥は炉のそばで羽を膨らませ、パン屑をついばんだ。命令を運ぶ者まで、今はただ温まりに来た客に見えた。

外は一面の雪だった。それでも彼女の小屋では、今夜の分だけの火が、誰の命令もなく燃えていた。