洗濯ばさみ三つ

磯村灯がベランダへ出ると、シーツの端が手すりの外で揺れていた。昼の風で洗濯ばさみが外れ、共同庭の金木犀へ引っかかっている。

そのとき、寝室からルークの爪音がした。

病院から帰って二時間。老犬のルークには腹水がたまり、獣医は散歩をやめるよう言った。ただし本人が出たがるなら、数分だけ平らな場所へ、と付け加えた。明朝の処置を前に、今夜が最後になる。

灯はシーツを取りに行くことにした。共同庭までなら階段を使わず、廊下の端からスロープで下りられる。これは散歩ではなく洗濯物の回収だ、と自分へ言い訳した。

ルークにハーネスをつけ、空の洗濯かごを持つ。廊下へ出ると、ルークは隣室のドアマットを嗅ぎ、宅配ボックスの前で立ち止まった。毎日歩いた場所なのに、今夜は一つずつ点検するようだった。

庭の金木犀には、白いシーツが帆のように膨らんでいた。灯が枝から外そうとすると、ルークがその下へ入り込んだ。薄い布越しに丸い背中が透ける。子犬のころ、干した毛布の下で眠って叱られたことがある。思い出したが、口には出さなかった。

シーツの裾には土が少しついていた。灯はかごへ入れず、その場で払った。ルークは落ちた葉を一枚嗅ぎ、前脚で押さえた。

廊下へ戻る途中、洗濯ばさみを三つ拾った。青、白、青。うち一つはばねが曲がっている。灯はルークを待たせ、曲がったものだけポケットへ入れた。

部屋に戻り、シーツを洗濯機へ入れる。短いすすぎコースを選び、ふたを閉めた。ルークは洗面所の入口で伏せている。

残った二つの洗濯ばさみを物干し竿へ戻す。最後に新しい白いものを一つ足し、三つ並べて竿を挟んだ。

洗濯機が回り始めると、濡れた布が窓の向こうで白く持ち上がった。灯はポケットの曲がった洗濯ばさみを机へ置く。捨てるのは明日でいい。ルークは回転音に耳を動かし、いつものように洗面所の敷居へ顎をのせた。

かちり、かちり、かちり。三つ目の音で、風にほどけていた洗濯が片づいた。