浮遊港ラウンジの黒い搭乗券

浮遊港の貴賓ラウンジで、ヴァルク提督は係員カイネの胸章を杖で叩いた。

「私の荷を検査するだと? 提督専用艇へ今すぐ積め」

「生体反応があります。危険物申告をお願いいたします」

「中身は勲章だ。平民が二度聞くな」

 黒い箱の中で、何かが爪を立てた。

 カイネは黒い搭乗券を差し出した。

〈生物・魔獣・卵を含まない〉の欄へご署名ください」

 提督は軍印を乱暴に押す。

「これで満足か。遅延の責任はお前に取らせる。家族まで港から追放してやる」

 彼は部下への通信具を開いたまま、箱を蹴った。

「雛が騒いでいる。眠り薬を追加しろ。国境を越えれば竜卵一つで屋敷が買える」

 カイネは搭乗券を改札石へ置いた。

 黒い券が赤く染まり、提督の声をそのまま再生する。

「なぜ録音している!」

「軍用優先券は、密輸防止のため申告中の通信を保存します」

「知らん。規約が長すぎる」

「提督が先ほど、全項を確認した欄にも軍印を押されました」

 箱の蓋が内側から割れ、銀色の小竜が顔を出した。首には隣国王立繁殖院の識別輪がある。薬で弱った翼を震わせながらも、差し出されたカイネの手には素直に鼻先を寄せた。

 提督は杖を抜き、カイネへ向けた。

「これは押収品だ。国家機密を見たお前を反逆者として処刑する」

 ラウンジの天井から声が降った。

『その押収記録を照会しましたが、存在しません』

 浮遊港司令官だった。搭乗券は改札石を通じ、軍監察部へ自動送信されている。

「司令官、私を疑うのか」

『いいえ。あなたが署名し、あなたが中身を説明しました』

 窓の外で提督専用艇の係留鎖が固定される。乗員たちは既に降ろされ、代わりに軍監察官が列を作っていた。

 カイネは小竜を毛布で包み、提督の前から箱を下げた。ラウンジの給仕たちが水と解毒薬を運び、提督に命じられなくても一斉に動いた。

 港内放送が切り替わり、司令官の声が全桟橋へ響く。

『ヴァルク提督に全軍権の停止、および王立繁殖院からの竜卵窃盗・密輸容疑による逮捕命令を通達する』