消曜日変更届
市民は成人すると、毎週消える曜日を一つ割り当てられる。変更できるのは生涯に一度だけ。結婚する二人は同じ曜日を消さなければならず、違う場合はどちらかが変更届を出す。
鴫森理久は月曜日、恋人の緋奈は木曜日が消えた。
二人が会えるのは金曜の夜から日曜までだった。月曜の朝、緋奈が出勤すると理久は火曜まで眠る。木曜には理久が働き、緋奈は金曜までいなくなる。冷蔵庫の献立表と洗面台の濡れ具合で、互いの生活を知った。
結婚を決めたとき、緋奈は自分が月曜へ変更すると言った。
「私は木曜に大事な仕事ないし」
だが緋奈は毎週木曜、病院で治療を受けていた。消える曜日の医療は記録に残らず、費用もかからない代わりに、患者は治った理由を尋ねてはいけない。月曜へ変えれば、治療は受けられなくなる。
理久が木曜へ変える手もあった。けれど彼は月曜の消失を利用する倉庫会社で働いている。日曜に入庫した生鮮品を、火曜まで一晩で保管する仕事だ。曜日を変えれば退職になる。
市役所の窓口で、職員は二枚の変更届を並べた。
「どちらか一人が押印してください。押した方の消曜日が、来週から相手にそろいます」
緋奈は印鑑を出した。理久はその手を止めた。
「仕事なら探せる」
「治療だって、普通の日に受ければいい」
普通の日の治療には、彼女が払えない額が必要だった。二人とも知っていた。
窓口職員は時計を見た。受付終了まで三分。
理久は自分の届に印を押した。木曜が消える。会社も、月曜だけ会う同僚も、火曜の朝に積み上がる仕事も失う。
緋奈は怒った。
「相談して決めるって言ったのに」
「相談したら、君が押すから」
職員は書類を受け取り、結婚届の曜日欄に木と記した。
翌週、理久は退職した。水曜の夜、二人で早めに寝た。木曜が消え、金曜の朝に目を覚ますと、緋奈の治療痕は薄くなっていた。理久のスマートフォンには、存在しない木曜の日付で不採用通知が七通届いていた。
テーブルには、市役所から返された印鑑があった。朱肉を拭いたはずなのに、印面の「鴫森」の森だけが消え、木の字が三本、赤くばらばらに残っていた。