深夜勤務者は購入不可
午前零時から六時まで、コンビニの入口脇にある自動販売機は後悔専用になる。客はレジで百円を払い、店員から白い札を受け取って投入する。夜勤者は勤務中に自分の後悔を入れてはいけない。客の札を読み上げたり、内容について話しかけたりすることも禁止だ。
戸成は週に四日、その機械の世話をした。補充するのは飲料ではなく白札で、回収箱にたまった後悔は朝番が数える。内容は見ない決まりだが、筆圧までは隠せない。
午前三時二十分、元恋人の奈津が入ってきた。別れて八か月になる。彼女は温かいお茶も買わず、百円だけをカウンターへ置いた。
戸成は白札を一枚渡した。奈津はイートインの机で書き、二つ折りにした。機械へ入れる途中、紙が開いた。
〈あの夜、迎えに来てと言わなかったこと〉
戸成は見なかったふりをした。あの夜がどの夜かは分かる。別れを決めたというメッセージが来た夜、戸成は「了解」と返した。駅まで十分だった。彼女がそう決めたなら尊重するのが大人だと思った。
機械は札を受け取り、苺ミルクを一本出した。奈津はそれを持ってレジへ戻る。
「これ、甘いかな」
店員は内容に関係する会話をしてはいけない。戸成は商品の表示だけを読み、「糖類は一〇〇ミリリットル当たり十一・二グラムです」と答えた。
奈津は笑わず、店を出た。自動ドアの向こうで、苺ミルクを開ける音がした。
六時になり、戸成はタイムカードを切った。制服を脱ぎ、客として百円をレジの朝番に渡す。白札に〈午前三時二十二分、名前を呼ばなかったこと〉と書いた。
機械から商品は出なかった。代わりに、商品口へ角氷が一つ落ちた。透明な氷の中に、夜勤中につけていた名札が封じられている。表の「戸成」は読めるのに、裏の安全ピンだけが、誰かを引き止める指のように外へ突き出していた。
朝番は氷を冷凍商品のケースへ入れようとしたが、温度表示が何度下がっても溶けなかった。戸成は紙袋に包んで持ち帰った。部屋の机に置くと、安全ピンが一度だけ閉じ、氷の表面へ「勤務外」という細い傷を引いた。その傷の端に、苺色の水滴が一つ止まった。