灰から青火を起こす火打石

鍛冶街の古物店〈冷えた炉端〉は、火の気がないことで有名だった。冬でも客用の炉が冷たいので、腕の悪い店主だと噂されている。

店主ヴァロは火魔法を持たず、炉にも薪を入れない。それでも棚の中央には、煤けた火打石を一組だけ飾っていた。

若い鍛冶師ドラウグが来たとき、手も髪も灰だらけだった。

「親方が死んでから、工房の炉が燃えない」

薪も油も魔法火も、炉へ入れた途端に灰になる。鍛冶組合は「炉に拒まれるのは腕がない証拠」と工房を没収しようとしており、明朝までに試験用の剣を一本打てなければ廃業だった。

「強い火種を売ってくれ」

「強さでは足りません。あの炉は、作る理由を問うています」

ヴァロは煤けた火打石を差し出した。

「これは王の炉にも、盗賊の焚き火にも使われた古物です。金や名誉のためには火花すら出ません。誰かに必要な物を作る手なら、灰の中でも燃えます」

ドラウグは鼻で笑い、石を打った。何も出ない。

「ほらな。俺には才能がない」

「明日、何を打つつもりでした?」

「組合へ見せる飾り剣だ」

「本当に作りたい物は」

長い沈黙のあと、彼は懐から折れた小刀を出した。亡き親方が、孤児院の子どもたちへ薪割り用に作ったものだという。

「これを二十本。冬が来る前に」

もう一度、火打石が鳴った。

青い火花が一筋落ち、店の鉄皿で轟く炎となった。熱は強いのに、木の棚を焦がさない。ドラウグは両膝をつき、炎へ親方の名を呼んだ。

「炉が拒んだんじゃない。俺が、見せるための剣しか考えていなかったのか」

彼は火を火打石へ戻し、走って帰った。

翌朝、ドラウグは二十本の小刀を背負って現れた。工房の炉は青く燃え、組合の試験官は飾り剣より先に小刀の切れ味を見て、工房存続を認めたという。

彼は最初の小刀一本と、値札どおりの銀貨を置いた。

「これは代金じゃない。店の薪割り用だ」

ヴァロは笑って受け取った。

ドラウグが火打石を鳴らしながら帰った直後、店の冷えた空気を震わせて二度目のドアベルが鳴った。