灰色塔の最終試験
魔法学院の最終試験で、ケインだけ課題が違った。
他の生徒は防壁で火球を防ぐ。彼に渡されたのは、濁った紫の毒杯だった。
「防御科の落ちこぼれには、実戦的な試験が必要だ」
教授オルフェンが笑う。ケインは三年間、防壁を一枚も出せなかった。表示される技能は〈無反応〉。教師たちは、魔力に反応できない欠陥だと決めつけていた。
「飲め。解毒できれば卒業だ」
杯は学院倉庫から盗まれた〈魔蝕液〉。魔力回路を腐らせ、術者を二度と魔法が使えない身体にする。卒業させないどころか、事故に見せて処分するつもりだ。
ケインは黙って飲んだ。
観測水晶に紫の線が走る。オルフェンは、回路崩壊の表示を待った。
《毒性侵入 完了》
《魔力回路への干渉――なし》
教授の笑みが止まる。補助教員が水晶を叩き、毒瓶の番号を照合する。昨年、魔獣を一滴で崩した原液と一致していた。生徒たちはようやく、失敗しているのがケインではなく、教授の筋書きだと気づいた。後列から、誰かが小さく「もう十分だ」と言った。
「水晶の故障だ。砲台を起動しろ」
第二試験用の魔導砲が、ケインへ向けられた。学院長すら使用を禁じた〈灰星砲〉。防壁百枚を貫く一撃だ。
「これに反応できなければ不合格だ!」
光柱が発射され、試験場が白く消えた。衝撃で窓が割れ、灰煙が塔を満たす。生徒たちは机の下へ潜り、オルフェンは結界の中で息を荒くした。
煙が晴れる。
砲台の後ろにいたオルフェンだけが腰を抜かしている。ケインは杯を持った同じ姿勢で立っていた。防壁はない。服にも傷はない。
生徒の一人が、去年の暴発事故を思い出した。ケインが実習室にいた日だけ、誰も怪我をしなかった。偶然だと笑われた三年間が、今、一つの答えにつながる。
「先生。〈無反応〉なのは、僕ではありません」
彼は観測水晶へ手を触れた。
「僕に向けられた害意のほうです。毒も魔法も、僕を傷つける結果に反応できない」
水晶が再測定を始める。数字が九桁、十二桁、十八桁と増え、表示枠を突き破った。最後には文字さえ崩れ、ただ一行だけが残った。
《防御値 測定不能》