王衣を縫わない仕立屋
クオネルは、王侯の衣を縫わない仕立屋だった。
彼女が裁つのは、鎧の下へ着る薄い仕事着ばかり。豪華な刺繍も宝石の釦もなく、完成品は鎧売場の裏で渡される。売上寄与は9%。衣装長は金糸を揺らしながら言った。
「庶民布しか扱えない者に裁断室は広すぎる」
クオネルは型紙を丸めた。彼女の仕事着は、肩や脇の布目を鎧の動きに合わせて逃がしてある。重い鎧でも皮膚を擦らず、腕が止まらない。客が高価な鎧を着続けられたのは、目に見えない下着のおかげだった。
衣装長は下着まで豪華にしようと、硬い刺繍と厚い縁飾りを加えた。試着室では美しかった。だが遠征から戻った客の肌には傷が走り、腕の動きが鈍って盾を落とした者もいた。鎧そのものに欠陥はなくても、客は「この店の装備は戦えない」と返品した。
衣装長は鎧鍛冶へ怒鳴り込む。鍛冶は返された鎧の内側から、血の付いた刺繍糸を抜いた。
「鋼が動きを止めたんじゃない。布が肉を縛ったんだ」
店の《着用売上鏡》が試着室の壁に現れた。買った瞬間の華やかさではなく、使い続けられた期間と再注文の理由を映す鏡だった。王衣の金糸は鏡面でほどけ、鎧、手袋、盾の売上が、クオネルの簡素な型紙へ縫い戻されていく。
「下着が鎧より価値を持つわけがない!」
衣装長の叫びに、鏡は針のような文字を返した。
《見せる衣は憧れを売った。動ける衣は装備を商品にした》
鎧鍛冶たちは、自分の工房印が付いた返品札を外し、クオネルの型紙の横へ置いた。責任を押しつけるためではない。次からは鎧と下着を別の商品にせず、動作確認まで共同で行うという誓約だった。衣装長だけが署名を拒んだが、鏡には彼の金糸が返品理由として映り続けた。
クオネルは裁断室へ戻り、衣装長が守っていた金の裁ち鋏を受け取った。最初に切ったのは布ではなく、下着を添え物とする古い規定だった。
騎士たちは古い仕事着を持ち寄り、肩や脇にあるクオネル独自の裁ち目を見せた。布は簡素でも、鎧の重さを逃がし、長い戦いの後も腕を上げられたという。豪華な下着で傷ついた客は、衣装長の金糸をほどき、代わりにクオネルの型紙を指定した。彼女は王衣の職人たちへ、刺繍を捨てろとは言わない。ただ、身体の動きを止める飾りは意匠ではなく欠陥だと明言した。衣装長は金の裁ち鋏を磨く係へ回され、切る判断は許されない。裁断室の中央には鏡ではなく、実際に動くための試着台が据えられた。
《真価確定:クオネル 実売上寄与91%》
《売上順位:末席→首位/役職:下着裁ち係→王都装備服飾長》