王都という種袋を選り分ける

種子選別人ナシュタは、王立農園で一日中、水に浮く種をすくっていた。

沈む種は芽が出る。浮く種は中身がない。誰でもできる仕事だと学者は言い、彼女が救った収穫量を自分の研究成果にした。成人技能も、袋の前でしか役に立たないと笑われた。

【真種選り:一つの袋に混じる種を、指定した将来を宿すものと、それ以外へ分ける。袋の材質と大きさは問わない】

魔族の錬金王が王都を透明な膜で包んだ日、住民十万人は小さな黒い粒へ変えられた。

膜の中には同じ姿の魔獣卵も混ぜられている。夜明けまでに人の種だけを取り出せなければ、全てが孵化し、王都は魔獣の巣になる。宮廷鑑定士は一粒ずつ調べ始めたが、一刻で百粒しか見られない。

錬金王は城壁の上から笑った。

「十万の命を一粒ずつ見分けろ。農民の選別では永遠に終わらぬ」

ナシュタは透明な膜へ手を当てた。

袋とは布製とは限らない。中身を一つに包んでいるなら、王都を覆う膜も巨大な種袋だ。

彼女が指定した将来は、明日、自分の名を名乗って歩く者。

技能を一度使う。

黒粒の海が二つに割れた。広場の東側へ、人の未来を宿す種だけが集まる。西側には、命令どおり殺す未来しか持たない魔獣卵が積み上がった。

東の種が一斉に割れ、十万人の住民が元の姿で立ち上がる。赤子は母の腕へ、病人は寝台へ、衛兵は持っていた槍の位置へ戻った。

西側の卵は錬金王の足元へ転がっていく。彼が逃げようとした瞬間、卵が孵り、最初に見たものを親だと思った魔獣たちが一斉に抱きついた。

透明な膜は内側から住民の拳で砕けた。

一粒ずつ調べていた鑑定士は水晶板を置き、ナシュタへ深く頭を下げた。救われた住民たちは互いの名を呼び合い、自分が人として戻ったことを確かめる。魔獣に抱きつかれた錬金王は命令印を奪われ、今度は十万人の目の前で裁きを待つ側になった。 広場には、取り戻した明日を喜ぶ声が重なった。

《職業が【種子選別人】から【万生選種官】へ書き換わりました》