生放送で紫音を切る

深夜ラジオの司会者、雲林院紫音は、収録ブースの外から自分の名を聞いた。

プロデューサーが音響担当へ言う。

「今夜、紫音を切る」

「本人には?」

「本番まで秘密。冒頭の笑い声だけ残せばいい」

「長かったですからね」

「ああ。もう流れを止めている」

紫音はドアの陰で息をのんだ。

番組開始から五年。聴取率は最近落ちている。ついに生放送で降板させるつもりだ。

相方へ打ち明ける。

「私、今日で切られる」

「誰が言った?」

「プロデューサー」

「理由は?」

「長くて流れを止めるって」

相方は時計を見る。

「確かにオープニングトーク、先週四十分だった」

「今、制作側に立つの?」

「事実側」

紫音は本番前、スタッフへ遠回しに確認した。

「今夜、何か大きな変更が?」

「あります」と音響担当。

「私の声は残る?」

「最初だけ」

「その後は?」

「きれいに消えます」

「本人の前でよく言えるわね」

「本人?」

「私よ」

音響担当はなぜか首をかしげた。

生放送が始まった。

紫音は冒頭から重い口調で語る。

「五年間、私はこの席で皆さんと夜を越えてきました。けれど、すべてには終わりがあります」

相方が小声で言う。

「台本にない」

「最後くらい自由にさせて」

紫音はさらに、局内の秘密を告白した。

「差し入れの高級プリンを食べたのは私です。スポンサー名を一度間違えたのも。プロデューサーの机の観葉植物へ麦茶をやったのも」

ブースの外でプロデューサーが頭を抱えた。

「そして今夜、私は切られます!」

CMに入ると、プロデューサーが飛び込んできた。

「誰が君を切ると言った」

「聞きました。紫音を切る、と」

プロデューサーは音響画面を指した。

番組のテーマ曲は、ロックバンド〈水際〉の『紫音』。七分ある長い曲で、今夜から二分へ短縮する予定だった。

音響担当が言う。

「残す笑い声は、曲の冒頭に入っている子どもの声です」

紫音はマイクへ戻った。

「訂正します。終わるのは私ではなく、テーマ曲の五分間でした」

その夜、番組より長かったのは、彼女の謝罪だった。