男子マネージャーの白いタオル
女子ソフトボール部で男子マネージャーをしていると、たいてい一度は理由を聞かれる。
選手になれなかったのか。誰か好きな人がいるのか。女子に囲まれたいのか。
本当の理由は、姉がこの部の卒業生で、病気で大会へ出られなかったからだ。代わりに何かしたかった。それだけだった。
最後の大会の日、主砲がホームへ滑り込み、膝をすりむいた。僕は救急箱と冷たいタオルを持って走った。
「白いの、汚れるよ」
彼女が言った。
「汚すためにある」
タオルを膝へ当てると、彼女は歯を食いしばった。次の打席にも立ち、二塁打を打った。
試合は一対二で負けた。
学校へ戻った夕暮れ、彼女は一人でグラウンドにいた。僕がラインカーを片づけていると、呼び止められた。
「なんで三年間続けたの」
いつもの質問だった。
「今さら?」
「最後だから、本当の答え」
姉の話をすると、彼女は黙った。実は姉と同じ背番号をつけていたらしい。僕は知らなかった。
「先輩、応援に来てた?」
「来てた。外野の端」
「見えなかった」
「泣いてたから」
彼女は首にかけた白いタオルを外した。膝の泥と、少しの血がついていた。
「これ、先輩に渡して」
「洗ってから?」
「そのまま」
姉は試合に出られなかった。けれど、自分の背番号をつけた後輩が最後まで走った。その証拠として、汚れたタオルを受け取った。
翌日、姉は洗濯せずに乾かし、僕の部屋のドアへかけた。
「何で僕の部屋」
「三年間の表彰状」
白い布に、泥の丸い跡が残っていた。
卒業式の日、主砲だった彼女が「マネージャー」と呼び止めた。もう部活ではないのに。
「今度は何」
「理由、もう一個あったでしょ」
「ない」
「私たちのこと、好きだったから」
否定しようとして、できなかった。
誰か一人ではなく、夕暮れのグラウンドも、声も、汚れる白いタオルも、全部好きだった。
彼女は笑って、最後に言った。
「それなら、選手と同じくらい部員だよ」
その一言は、どの表彰状よりまっすぐ胸に入った。僕は初めて、理由を聞かれて笑うことができた。