番組表の最上段
学校のメディア講座で、香月森亜弥乃は娘をカメラの中央へ立たせた。
「主人がテレビ局のプロデューサーですから、うちの子は撮られ方を知ってるの。素人のお子さんは後ろのほうが自然よ」
小夜鳥森文莉の息子は、撮影機材を見たくて参加していた。亜弥乃は、文莉の夫が「カメラの仕事」と聞くと微笑んだ。
「下請けの撮影会社? 主人の番組で人手が必要なら紹介できるかも」
文莉は礼だけ言った。
講座の特別講師が到着すると、亜弥乃の夫・久慈谷一晴は急いで入口へ向かった。
入ってきたのは文莉の夫・小夜鳥森詠介だった。
「小夜鳥森社長、本日はありがとうございます」
詠介はテレビ局の代表取締役社長であり、報道カメラマン出身のドキュメンタリー監督だった。一晴は情報番組の制作プロデューサーで、詠介へ新番組の企画を提出している立場だった。
亜弥乃は娘の肩を抱いたまま固まった。
「社長って、経営だけで撮影は分からないでしょう?」
詠介は、講座用の小型カメラを手に取った。光の向きと音声の拾い方を説明し、子どもたち全員へ順番に触らせる。
息子が撮ったのは、中央でポーズを取る子ではなく、床に落ちたケーブルを直すスタッフの手だった。詠介はその視点を褒めた。
一方、亜弥乃は学校へ無断で娘のプロフィール資料を配り、局の番組へ出演が決まったと書いていた。一晴は初めて見て顔色を変える。
「出演はオーディションで決まる。僕にそんな権限はない」
亜弥乃は文莉へ囁いた。
「社長の息子なら、最初から中央へ出せばよかったのに」
文莉は、息子の映像を見た。
「中央にいる人しか撮れないなら、カメラを持つ意味がないでしょう」
講座の最後、子どもたちが作った短編映像のクレジットが流れた。撮影者、音声、編集、出演者の名前は同じ大きさで並んでいる。
一晴が社長へ企画書を手渡し、亜弥乃が勝手に印刷した〈出演決定〉資料を回収した瞬間、番組の最上段に夫の名があると思っていた亜弥乃だけが、制作表の本当の責任者を知って青ざめた。