白い粉塵の向こう
製粉工場の夜勤で、小麦粉を袋へ送る包装機が三度止まった。毎回、オーガを守るせん断ピンが折れている。出荷担当は槙野未散へ、今度は太いピンを入れてほしいと頼んだ。
「細すぎるから負けるんです。朝のトラックが来ます」
未散は折れたピンを三本並べた。すべて同じ方向へねじ切れている。ピンは弱いのではなく、下流で何かが回転を止めたとき、より高価な減速機を守って切れたのだ。
彼女はホッパーを外から叩いた。上半分は軽い音、出口付近だけ石のように鈍い。清掃記録には、昼勤が温水を使ったとある。機械が冷えた夜、残った湿気で粉が固まり、オーガの先に拳大の塊を作っていた。
担当者が点検口を開けようとしたので、未散は電源だけでなく空圧も落とし、鍵を自分の腰へ付けた。ロックアウトをせずに詰まりへ手を入れれば、別の人が復旧ボタンを押した瞬間、オーガが回る。
出荷担当は圧縮空気で吹き飛ばす案を出した。未散は天井近くの白い膜を指した。粉を一度に舞わせれば、見通しを失うだけでなく、静電気の小さな火花でも燃え広がる。彼女は集じん機が動いていることを確かめ、周囲の機械も止めてから点検口を開いた。速い方法ほど、使える場所を選ぶ。
塊は棒で突いても崩れなかった。未散は下から無理に砕かず、ホッパーを空にし、上から少しずつ切り分けた。落ちた塊が包装口を塞がないよう、受け箱も外す。最後に内部を乾いた布で拭き、温水清掃のあと送風乾燥を入れる手順を追記した。
元と同じ太さのせん断ピンを入れ、空運転をする。次に粉を十キロだけ流し、電流値が上がらないことを確認してから通常量へ戻した。
未散は最初の五袋を開封し、固い欠片が混じっていないことも確かめた。回転が戻っても、砕けた塊が商品へ入っていれば復旧とは呼べない。
午前四時五十分、白い袋が一定の間隔でコンベヤへ並んだ。出荷担当は太いピンを棚へ戻した。
未散が粉塵まみれの髪を払うと、トラックのバック音が聞こえた。同時に、隣のふすま粉ラインで警報灯が点いた。朝は来ても、工場の白い夜はまだ続いていた。