白線の向こう

車は白線を越えて、私をはねた。

保険会社の調査員へ、私は病室から事故の様子を説明した。夕暮れの県道を自転車で走っていると、後ろから来た車が急に路肩へ寄り、私を側溝へ弾き飛ばした。運転手は逃げずに救急車を呼んだが、それは罪を軽くするためだ。

右脚には固定具が巻かれている。自転車は前輪が曲がり、フレームに車の塗料が付いていた。事故直後、私は通行人に自転車へ触らないよう叫んだ。証拠を守るためだった。だが救急隊員は、私が倒れていた位置と自転車の位置が十メートル以上離れていたと証言した。

「ヘルメットは?」

「衝撃で飛びました」

調査員は回収されたヘルメットを机に置いた。表面に傷が一つもない。顎紐はきれいに畳まれたままだった。私は事故の直前、暑くて外したのだと思い出した、と言い直した。

もう一つ、路肩の白線には自転車のタイヤ痕がなく、車のタイヤ痕だけが残っていた。

「車が線を越えた証拠でしょう」

私は胸を張った。事故を見たという匿名の電話も警察に入っている。声を低く変えて公衆電話から掛けたものだが、調査員はまだ知らないはずだった。

運転手は向かいの病棟にいた。ガードレールへ衝突し、両腕を骨折したという。私より重傷でも、加害者であることは変わらない。

車体に付いたはずの自転車塗料は見つからず、私のフレームの塗料だけが事故時刻より前に乾いていた。

調査員が道路管理カメラの静止画を並べた。最初の一枚で、私は自転車を白線の外に寝かせている。次の一枚では、手に持った塗料をフレームへ塗っている。最後の一枚で、私は暗がりから車道へ飛び出した。

運転手は私を避けるために白線を越え、ガードレールへ突っ込んだ。私の脚の骨折は、止まった車へ自転車をぶつけようとして転倒した際のものだった。

過去にも同じ場所で三件、示談金を受け取っている。無傷のヘルメットは、被害者らしさを足す小道具だった。

車が白線を越えて私をはねたのではない。

私が賠償金を取るため白線の向こうから飛び出し、運転手を事故の被害者にしたのだ。