百二十斤の朝
兵糧庫に残っていたのは、拳ほどの生地だけだった。
夜明けに門を開き、包囲軍の補給車を奪う。城塞に残る百二十人が坂を駆け下りるには、ひと口でも腹へ入れなければならない。
パン焼きカザナは、煤けた窯の底へ自分の血を塗った。
この窯は一つの生地を何斤にも増やせる。ただし焼いた一斤につき、焼き手の身体を半年ぶん老いさせる。
「十斤」
窯が赤く開き、黒パンを吐き出した。十九歳のカザナの爪に薄い縦筋が入り、目尻へ最初の皺が刻まれる。
「二十斤」
髪に白い糸が混じった。膝が軋む。
兵たちは止めた。門が開く前に焼き手が死ねば、残りは空腹のままだ。
「一人一斤はいらない」と兵站係ルボルが言った。「半分に切れ」
「坂の下で半分の力しか出なかったら、全員死ぬ」
三十斤。四十斤。窯が吐くたび、カザナの頬は痩せ、指の節が膨らんだ。腰が曲がり、前掛けの紐が身体に合わなくなる。
百斤目で、彼女は七十歳ほどに見えた。
残る生地はまだ膨らんでいる。あと二十人分。
その中には、矢運びのティエクもいた。小柄な少年は自分の分を返そうとした。
「僕は走らない。壁に残るから」
「壁に残る者ほど食べなさい」
カザナは百十斤目を取り出した。指の皮が裂れ、熱い鉄板を持てない。ルボルが代わりに並べた。
百十九斤。
残る一人はカザナ自身だった。
「私は要らない」
「おまえが門を開ける鐘を鳴らすんだ」とルボルが言う。「生きて朝を見ろ」
カザナは最後の一斤を焼いた。
背中がさらに縮み、歯が二本抜けた。視界が白く霞む。焼き上がったパンを噛む力は残っていなかったので、湯へ浸して飲み込んだ。
門が開く。百二十人はパンを腹へ入れ、朝霧の坂を駆け下りた。ほどなく城外から敵の荷車を奪った鬨の声が返る。
ティエクが戻り、窯の前に座る小さな老婆へ抱きついた。
「勝ったよ、カザナ姉ちゃん」
姉ちゃんと呼ばれた女は八十近い顔を上げた。若者の名を思い出すまで、長い時間がかかった。
窯の灰へ落ちた一本の白髪は、火に触れる前に崩れた。
その朝、城塞で最も若かったパン焼きは、誰よりも古い手で勝利の鐘を鳴らした。鐘綱を握った指から、積み重なった季節の皮膚が薄く剥がれ落ちた。