百円引きの果実タルト
真崎絵都は、同じチームの正社員にだけ賞与が出たことを、給料日の朝礼で知った。
絵都は契約社員だった。更新面談のたび「正社員登用も考えている」と言われ、その言葉を信じて三年が過ぎた。実績表には絵都の数字が並ぶのに、契約書だけは一年ごとに白紙へ戻った。企画数も担当顧客も同じで、繁忙期には新人の指導までした。それでも上司は「契約が違うから」と言い、申し訳なさそうな顔をするだけだった。隣の席の同僚に「気にしてないよ」と笑ったのは、悔しいと言えばお金に細かい人だと思われそうだったからだ。
帰りのスーパーで、果実タルトに百円引きのシールが貼られていた。苺はつやつやしていたが、端のキウイだけ少し乾いている。絵都はそれを一つ買った。
部屋でフィルムを外すと、果物の甘い香りがした。冷えた艶出しゼリーの下で、タルト台はフォークに固く割れた。
絵都は、いつも残すキウイから食べた。
乾いた縁は舌にざらついたが、中心はちゃんと酸っぱかった。見栄えが少し悪いだけで、先に捨てる必要はなかった。いつも自分へしてきた扱いに似ていた。値引きされたから中身まで劣るわけではない。雇用区分のシールを貼られた自分も、仕事の手触りまで薄くなったわけではなかった。
次にオレンジ、ぶどうの順で食べ、中央の苺を最後まで残した。ご褒美にするためではない。赤い実を、給与明細の「基本給」の欄の上へ置いて写真を撮るためだった。
絵都は会社の相談窓口へ、契約社員と正社員の業務一覧を添付した。賞与を今すぐ同額にしてほしいとは書かなかった。担当範囲が同じなのに待遇が違う根拠を、文書で示してほしいと求めた。
送信後、苺をフォークで二つに切った。一方を食べ、もう一方は皿に残した。
全部を勝ち取ってから祝うのでは遅い。半分は、黙らなかった今日の分。残り半分は、返事が来た日に食べる分だった。
百円引きのシールは、丸めずに家計簿へ貼った。安くされた事実と、安い価値しかないことは、同じではない。