百鬼夜行の嫁入り門

雨乞いを失敗した半妖の千早は、人里を救うため鬼ヶ峰の頭領へ嫁ぐことになった。婚礼の夜、村人は提灯を並べ、誰も彼女の顔を見なかった。

幼い頃にも、妖力が暴れて社を焼いた。そのとき養家は千早を山へ捨てた。今度も同じだ。役に立たなければ、人も妖も最後には自分を差し出す。あの日、焼け跡に残ったのは片方だけの草履だった。養母は迎えに来ず、千早は三日間、社の裏で名を呼ばれるのを待った。その記憶が、提灯の火を見るたび喉の奥へ戻ってくる。今夜の村人たちも、千早が駕籠へ入れば門を閉める手順だけは念入りに確かめていた。誰一人「帰っておいで」とは言わない。彼女は草履の爪先を、鬼ヶ峰へ向けるしかなかった。

鬼の駕籠が門をくぐる直前、黒い太刀が敷石へ置かれた。

烏天狗の鴉丸が、羽を畳んで頭を下げる。

「この刀を預ける。おまえが戻るまで、俺は戦へ行かぬ」

門脇では巫女の八重が、祭りの桟敷に一枚だけ白い座布団を置いた。

「来年の雨祭りの席。主役でなくても、隣で団子を食べる席です」

街道の向こうでは人間の大工・奏多が、車輪を外した荷車に腰掛けていた。すぐ出発できないよう、わざと修理途中にしている。

「直すのは千早が乗ってから。置いて出る仕組みにはしない」

鬼の頭領が怒鳴ると、八重は雨乞い札を火へかざした。札の裏から、村長が水神への供物を横流しした印が現れる。雨が来なかったのは千早の妖力ではなく、儀式そのものが偽物だった。

頭領は契約無効を認めたが、千早は門から動けなかった。社を焼いた過去まで消えたわけではない。三人も真実を知れば、いつか怖くなる。

「また、火を出すかもしれない」

鴉丸は刀から手を離し、八重は座布団へ自分の分の団子も置いた。奏多は外した車輪をさらに遠くへ転がした。

「燃えたら、今度は四人で建て直す」と奏多が言う。

千早は角隠しを外し、鬼の駕籠ではなく修理中の荷車へ向かった。刀、白い席、動けない車。人里にも山にも、彼女を差し出さず待つ場所があり、嫁入り門は初めて帰り道になった。