眠らない共同鍋
鉱山町グロムでは、冬になると夜番の坑夫だけが冷えた芋をかじっていた。
食堂は日暮れで閉まり、各家の鍋も夜半には空になる。夜番手当はあるが、吹雪の季節に開いている店はない。代官タミルが坑口で聞いた不満は、それ一つだった。
「では、火を消さない鍋を置こう」
共同食堂を作ると言うと、料理人たちは賃金を心配した。タミルは帳面を開き、制度を一行ずつ読んだ。
坑夫は勤務一回につき食券一枚。鉱山主は掘り出した鉱石百箱につき、豆一袋か同額の銅貨を納める。食堂を一刻手伝えば食券二枚。病人の家には週三枚を無条件で配る。代官所の役人も食べるなら食券を出す。余った銅貨と豆の量は、毎朝、坑口の掲示板へ記す。
鉱山主は渋ったが、計算すると夜番の欠勤が一人減るだけで負担を上回る。料理人は三交代ではなく、煮込みを継ぎ足す方式なら二人で回せると言った。
最初の夜、タミルは誰にも当番を命じなかった。
それでも昼番の坑夫が薪を割り、夜番の妻が豆を水へ浸した。元酒場主は大鍋を貸し、少年たちは食券へ穴を開けた。料理人は「芋だけでは飽きる」と、自分の庭の乾燥香草を持ってきた。
開店三日目、鉱山主の甥が食券なしで鍋へ近づいた。
「叔父が豆を出している」
料理人は蓋を閉じた。
「それは鉱山税。あなたの夕食代ではありません」
甥は代官を見たが、タミルも自分の券を掲げている。結局、甥は薪割りを一刻手伝い、正規の二枚を受け取った。翌日からは、役人も親族も箱へ券を落とす音が当たり前になった。
真夜中、濡れた坑夫たちが戻る。食券を出す手は遠慮で縮こまらなかった。それは施しではなく、勤務と税と手伝いで支えられた一杯だった。
タミルも一枚を箱へ入れ、列の最後に並んだ。
蓋が開く。豆と肉の匂いが白い湯気になり、眠らない町の天井へ広がる。
入口の札には、料理人の太い字でこうあった。
――この鍋は、最後の一人が帰るまで消さない。
その文の下で、次の夜番のための薪が、誰に言われるでもなく一本ずつ積まれていった。