知らない駅の制服

蓬田が新しい制服を着た朝、鏡の中に知らない生徒が立っていた。

紺色のブレザー。細い緑のネクタイ。前の学校のセーラー服は段ボールの底へしまわれ、もう着る予定はない。

母親に急かされ、蓬田は家を出た。

最寄り駅までの道も、乗る電車も、降りるホームも初めてだった。改札前には同じ制服が何人もいた。皆、迷わず歩いていく。

蓬田は少し離れてついていった。

電車が来る。彼らと同じ車両へ乗る。誰かが英単語帳を開き、誰かが昨日のテレビの話をする。蓬田だけが、制服の集団に紛れた偽物のようだった。

三駅目で、前の学校と同じ制服が乗ってきた。

白い襟、紺のスカーフ。

知らない女子だった。

それでも蓬田は息を止めた。胸の校章も、袖の線も、毎朝見ていたものと同じ。女子は友達と笑いながら、吊り革につかまった。

蓬田は声をかけそうになった。

学校はどこ。何年生。あの坂を知っている。購買のパンはまだすぐ売り切れる。そんなことを訊いて、どうなるのかわからないまま。

女子がこちらを見た。

蓬田は目をそらした。

窓へ映る自分は、緑のネクタイをつけている。その隣に、古い制服の女子が映る。二人は同じ電車に乗り、別の駅へ向かっている。

次の駅で、女子は降りた。

ホームを歩く背中が遠ざかる。蓬田は追わなかった。

新しい学校の最寄り駅に着くと、同じブレザーの生徒たちが一斉に立ち上がった。蓬田も遅れて立つ。

ホームへ降りる。

先ほどまで名前も知らなかった制服の背中が、改札へ続く道をつくっていた。

その中の一人が振り返った。

「一年? 校舎、こっちだよ」

蓬田は二年生だったが、「ありがとう」と答えてついていった。

学校へ着くころには、ネクタイの結び目が少し緩んでいた。教室の窓へ映った顔は、まだ知らない生徒のままだった。

けれど帰りの電車では、同じ制服が一人もいなくても、乗り換えを間違えなかった。

翌朝、駅で迷っている一年生を見つけた。

蓬田は少しだけ先を歩き、振り返った。

「学校、こっちだよ」

その声を出した瞬間、新しい制服が初めて、自分の服になった気がした。