石化魔法を昼寝に翻訳する
魔法学院の術式翻訳生セオドは、実技で一度も火球を出せなかった。
異なる魔法系統の術式を書き換えるだけの専攻は、教授から「他人の魔法へ寄生する学問」と呼ばれていた。
【固有スキル《系統翻訳》:同じ命令機能を持つ術式同士を、異なる魔法系統の文法へ置き換える】
卒業査定の日、セオドは学院長の研究費横領を記録した帳簿を提出した。
学院長は笑顔のまま扉を封鎖し、百人の学生へ禁制術を向ける。
「石像になれば、告発もできまい」
床一面に石化陣が開いた。解除術は学院長しか知らず、結界の外へ出る時間もない。
セオドは陣の中央へ飛び込んだ。
術式の命令は三つ。
《身体運動を停止》《意識を固定》《術者が許すまで維持》
石魔法では、それが石化になる。だが同じ機能を持つ系統なら、別の結果へ訳せる。
彼は眠り魔法の文法を選んだ。
灰色の波が学生を呑む寸前、柔らかな青へ変わった。
百人は石像にならず、その場で穏やかに眠り始める。硬化したのは身体ではなく、学院長が握っていた杖だけだった。
「同じ命令ではない!」
「動かず、意識が一つの夢へ固定され、術者が解くまで続く。同じです」
学院長は新たな攻撃を詠唱しようとした。しかし石化陣の術者は本人だ。翻訳後の三つ目の命令も有効で、眠りの波は術者へ最後に返る。
学院長は大あくびをし、帳簿を抱えたまま倒れた。
眠らなかったのは、翻訳時に術式の外側へ立ったセオドだけ。彼は扉を開き、監査官を招き入れた。
監査官が学院長の杖へ触れると、禁制術の使用記録が空中へ展開した。眠った本人は夢の中でも命令機能を維持しようとし、「帳簿を燃やせ」「学生を石にしろ」と寝言で罪を重ねる。記録水晶は一語も漏らさない。
セオドは眠り術の解除句だけを元の石魔法へ戻し、学生たちを目覚めさせた。百人が同時に起き上がり、倒れた学院長を見下ろす。実技零点と書かれた彼の答案は、監査官の手で最高評価へ裏返された。
その足元で学生証の職業欄が白く燃えた。
【職業《術式翻訳生》が上位職《術式変換卿》へ書き換わりました】