石喰いモグラの給料日
ネネカの鉱山では、つるはしを持つと叱られる。
叱るのは、丸々太った石喰いモグラたちだ。彼らは岩を食べ、鉄分だけを歯の裏に固め、夕方になると丸い鉄玉として吐き出す。ネネカが拾おうとすると鼻先で手を押し返し、自動荷車へ自分で転がす。荷車は製鉄村へ向かい、翌朝には売却代が振り込まれる。
「管理人は茶でも飲め」というのが、モグラたちの方針らしい。
ネネカは素直に従っている。
以前、冒険者組合の荷運び班にいたときは、従順であるほど荷物が増えた。緑の制服は肩紐のところだけ色が抜け、背中には木箱の角でできた四角い擦れ跡がある。「小柄だから狭い坑道に入れる」と便利に使われ、夜中の落盤にも呼び出された。
退職後の通信腕輪には、未読の緊急依頼が六十三件。ネネカは数字を見るたび、腕輪ごと土へ埋めたくなった。
その日、玄関の鉄玉型端末がぽこんと音を立てた。
《鉄玉十一個、買取完了。今月の食費および飼料費を確保しました》
飼料費といっても、モグラたちは山を勝手に食べる。余った分で茶葉と新しい枕が買える。それだけでネネカには十分だった。
直後、通信腕輪が赤く締まり、元班長グレゴの声が響いた。
『ネネカ、第四坑の運搬が遅れている。今すぐ来い。お前なら二人分持てるだろう』
「持てません」
『前は持っていた』
「持たされていただけです」
『新人が泣いているぞ。先輩として助けろ』
ネネカは足元を見た。一番大きなモグラが、心配そうに丸い鼻を寄せている。
「泣くほど運ばせるのをやめてください。私を戻すより先に」
『生意気になったな』
「はい。暮らしを人質に取られなくなったので」
腕輪を外して地面に置くと、モグラが一口で飲み込んだ。数秒後、ただの金属玉になって吐き出される。通信魔法だけきれいに消えていた。
ネネカは笑い、鉄玉と一緒に売却箱へ転がした。
それから新しい枕を草の上へ置く。モグラたちが左右に並び、柔らかな腹を押しつけてきた。
今日は誰の荷物も背負わず、その温かさだけを肩に受けて昼寝をした。