砂糖の獅子
菓子庫の奥で働く侍女オルキアは、夜明けまでに小さな獅子を作った。
砂糖で獣を形作り、誰かに食べさせれば、その人の恐怖を一つ消せる。代わりに、作り手が同じ恐怖を一生抱える。
明日の評議会で、十五歳の末王女は叔父の横領を告発する。証拠の帳簿はある。けれど王女は、大勢の視線を浴びると声が出なくなった。幼いころ、間違えるたび叔父に人前で笑われたせいだった。
「欠席すれば、帳簿は偽物にされます」
王女は菓子庫の床へ座り、膝を抱えた。
オルキアは銅鍋の砂糖を混ぜた。焦げる直前の甘い匂いがする。獅子のたてがみを一筋ずつ飴細工で立てながら、自分の将来を思った。
来月、城下の祭りで初めて露店を出す許可を得ている。王宮の隅で残り物を焼くだけだった彼女が、自分の名を掲げて菓子を売る日だ。広場には千人が集まる。客の前で味を説明し、笑って銅貨を受け取る。失敗しても、自分の店への最初の一歩になる。
王女の恐怖を引き受ければ、広場へ立つだけで息が詰まる。視線が針になり、声は喉で固まるだろう。露店どころか、毎朝の配膳点呼にも耐えられないかもしれない。
「あなたは、怖くないの?」と王女が尋ねた。
「怖いです。焦がすのも、売れないのも」
「では、なぜ店を出すの」
オルキアは獅子の尾を丸めた。
「怖いままでも、やりたいからです」
言ってから、その答えごと差し出すのだと気づいた。
評議の鐘が鳴る直前、オルキアは完成した獅子を王女の掌へ置いた。琥珀色の体に、胡麻粒の目が二つ光る。
「噛まずに溶かしてください。恐怖の名前を心で言いながら」
王女が獅子を口へ入れる。砂糖が舌の上で崩れた瞬間、オルキアの胸へ何百もの視線が突き刺さった。
扉の外には評議員が並んでいる。話し声だけで膝が震え、鍋を持つ手から汗が落ちた。
王女は立ち上がった。背筋を伸ばし、扉を開く。
「皆様に、お見せしたい帳簿があります」
澄んだ声が広間へ通った。
やがて中から拍手が起きた。オルキアには祝福の音ではなく、千人が一斉に自分を振り向く音に聞こえた。
彼女は祭りの出店許可証を握りしめたまま、菓子庫のいちばん暗い棚の陰へ身を隠した。