磨かれた盾の裏側

装具洗いのソルナは、出発前の盾を灰汁で何度も磨いた。

「傷ひとつない盾を洗って、仕事をした顔か」

盾将ガウスは、戦果盤に浮いた1%を見せつけた。ソルナは戦場へ同行しても、隊の後ろで布と灰の袋を抱えているだけだ。

標的の追跡獣ラグナハウンドは、金属へ付いた人の匂いを覚え、最も弱った者を執拗に狙う。だからガウスは盾を並べ、正面から受け止める作戦を立てた。

森へ入ると、獣は盾列を見向きもしなかった。

治癒師の背後へ回ろうとして、途中で何度も首を傾げる。鼻先を地面へ押しつけ、円を描いて戻る。ソルナが磨いた盾には匂いがない。それどころか灰汁の薄膜が、周囲の匂いを盾の外側へ滑らせていた。

ソルナは仲間の位置に合わせ、盾の向きを少しずつ変えた。匂いの流れが壁になり、獣の鼻を空き地へ導く。

「盾を動かすな!」

ガウスが怒鳴る。

だがソルナは治癒師の盾だけを裏返した。内側に残しておいた薬草の匂いが風へ乗る。追跡獣はようやく獲物を見つけたと飛びかかり、誰もいない空き地へ躍り出た。

そこへ魔術師の拘束陣が閉じる。

動きを封じられた獣を、ガウスが盾で殴り倒した。彼は帰還後、「鉄壁の陣で追い込んだ」と報告する。ソルナの仕事は出発前の清掃として処理された。

戦果盤は森に残った臭跡を再現した。獣が追ったのは人ではなく、磨かれた盾が作った匂いの通路だった。ガウスの固定命令に従っていれば、通路は閉じず、治癒師が襲われていたことまで示される。

「汚れていないから洗わなくていい、ではありません」

ソルナは盾の裏から薬草袋を外した。

「見えない汚れほど、魔獣はよく嗅ぎます」

戦果盤の首位表示が、ガウスの盾から彼女の布へ移った。

回収された追跡獣の牙を盾へ近づけると、牙はガウスの紋章ではなくソルナの薬草袋へ向いた。最後まで鼻は騙せない。盾兵たちは自分の盾を彼女の前へ並べ、隊長の号令より先に、磨き方の指示を待った。

【再算定完了】

【ソルナ・討伐寄与率:1% → 94%】

【隊内順位:最下位 → 首位】

【役職更新:装具洗い → 追跡遮断官】