空から届く祝辞

三十歳の同窓会は、空港ホテルの宴会場で開かれた。

柚木沢朱里は槇村帆澄のパンツスーツを見て、口元をゆがめた。

「制服みたい。昔から男っぽかったけど、まだ結婚してないの?」

帆澄は長い髪を低くまとめ、すっきりした顔立ちに銀色の時計だけを着けていた。中学時代は飛行機の本ばかり読んでいて、朱里に“滑走路”と呼ばれていた。

「仕事が面白いから」

「何してるの?」

答える前に、空港の天候悪化を知らせる放送が流れた。到着便の一部が遅れているらしい。朱里は旅行会社の営業主任で、航空業界なら自分のほうが詳しいとばかりに解説を始めた。

「こういう日は機長が判断遅いのよ。私は航空会社の役員とも知り合いで――」

宴会場の扉が開き、その航空会社の運航本部長と乗務員たちが入ってきた。全員が帆澄へ拍手する。

「槇村機長、先ほどは見事な判断でした」

帆澄は国内大手航空会社の国際線機長だった。悪天候の中、燃料と風向きを読み、百八十人を安全に代替空港へ着陸させて戻ってきたばかりだという。三十歳での昇格は会社最年少。専門誌の表紙にもなり、年収は朱里が自慢した額の数倍だった。

朱里は笑顔を作った。

「機長っていっても、副操縦士と交代でしょ?」

運航本部長が即座に答えた。

「最終判断をしたのは槇村です。今夜の便が無事だったのは彼女のおかげです」

乗客代表からの動画がスクリーンに映る。幼い子どもが〈ほずみきちょう、ありがとう〉と書いた紙を掲げていた。

帆澄は照れたように一礼した。

ホテル支配人が、最上階の会場費は航空会社から帆澄への表彰祝いとして支払われると案内する。朱里が幹事として集めた会費は全額返金されることになった。

「役員と知り合いなんだよね」

帆澄が穏やかに言うと、朱里は運航本部長を見た。相手は彼女を知らない顔だった。

窓の外を、帆澄が着陸させた機体が格納庫へゆっくり進む。

機内から届いた感謝状が壇上で読み上げられた瞬間、“滑走路”と呼ばれた少女は、誰より高い場所からこの夜へ戻ってきた。